二重人格(ドストエフスキー)の作品情報

- タイトル
- 二重人格
- 著者
- ドストエフスキー
- 形式
- 小説
- ジャンル
- 心理
- 執筆国
- ロシア
- 版元
- 不明
- 初出
- 『祖国雑記』第2号(1846年2月号)
- 刊行情報
- 岩波文庫、1981年
- 翻訳者
- 小沼文彦
二重人格(ドストエフスキー)のあらすじ・概要
主人公は小心で引っこみ思案の典型的小役人。家柄も才能もないが、栄達を望む野心だけは人一倍強い。そんな内心の相克がこうじたあまり、ついにもう1人の自分という幻覚が現れた!精神の平衡を失い発狂してゆく主人公の姿を通して、管理社会の重圧におしひしがれる都市人間の心理の内奥をえぐった巨匠の第2作。
作者
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821年11月11日 – 1881年2月9日)
ロシアの小説家。思想家。レフ・トルストイ、イワン・ツルゲーネフと並び、19世紀後半のロシア小説を代表する文豪である。代表作に『罪と罰』、『白痴』、『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』などがある。
二重人格(ドストエフスキー)の刊行情報
- 小沼文彦訳『二重人格』岩波文庫、1981年
二重人格(ドストエフスキー)の登場人物
ヤーコフ・ペトローヴィチ・ゴリャートキン
主人公。九等官、係長補佐
ペトルーシカ
ゴリャートキンの従僕
アンドレイ・フィリッポヴィッチ
ゴリャートキンの上司、課長、六等官
アントン・アントーノヴィッチ・セトーチキン
ゴリャートキンの上司、係長
オルスーフィイ・イワーノヴィッチ・ベレンジェーイェフ
ゴリャートキンの恩人、クラーラの父親、五等官
二重人格(ドストエフスキー)のあらすじ(ネタバレあり)
二重人格のあらすじ【起】
九等文官ヤーコフ・ペトロヴィッチ・ゴリャートキンは、その日朝起きるとまもなく馬車を借り切り、めかし込んで出かけた。途中、上司や同僚とすれ違い、ゴリャートキン氏の普段と違うその様子に彼らは驚いた表情を見せたが、ゴリャートキン氏は素知らぬ顔して馬車でその場を通り過ぎた。
気を鎮めるために彼は、リテイナヤ街の医師クレスチャン・イワノーヴィッチの所に寄ることにした。医師からは、もっと社交的になり、生活様式を根本から改め、性格を叩き直す必要があると言われる。自分は俗世間の騒々しさが苦手で、そういう付き合いには不向きな人間だと彼は答える。自分は取るに足らない人間だが、策を弄したり、人を傷つけたりはしないから私の手は汚れていないと言った。
だが、そのあとでゴリャートキンはわっと泣き出し、私には敵がいる、その凶悪な敵は私を破滅させようとしている、と言った。彼の言う敵とは職場の上司のアンドレイ・フィリッポヴィッチであり、その甥で八等官に昇進したばかりのウラジミール・セミョーノヴィッチであった。ゴリャートキン氏は彼の恩人でもある五等文官のオルスーフィイ・イワーノヴィッチの一人娘クラーラ・オルスーフィイェヴナに恋をしていたが、どうやらその娘は恋敵ウラジミール・セミョーノヴィッチとすでに婚約しているらしい。しかもその恋敵は伯父のアンドレイ・フィリッポヴィッチと一緒になってゴリャートキン氏をドイツ女性との醜聞により破滅させよう企んでいるに違いない、そう彼は思いこんでいるようだ。医師は、しっかり薬を飲むように言い聞かせ彼を帰した。
二重人格のあらすじ【承】
その後、ゴリャートキンは、馬車でイズマイロフスキー橋のオルスーフィイ・イワーノヴィッチ邸に向かった。そこではクラーラ・オルスーフィイェヴナの誕生祝いが行われていた。ゴリャートキンはオルスーフィイ・イワーノヴィッチ邸に入ろうとするが、入り口で断られてしまう。そこでゴリャートキンは屋敷の裏階段から入った台所口にずっと身を潜めて中の様子を伺っていた。
屋敷の中ではゴリャートキンの上司である六等文官のアンドレイ・フィリッポヴィッチが主賓として招かれ、その甥のウラジミール・セミョーノヴィッチは今夜の主人公クラーラに寄り添っていた。ゴリャートキンの直属の上司アントン・アントンノーヴィッチも来て祝辞を述べた。やがて、楽士が呼ばれ舞踏会が始まったが、三時間あまりが経ってとうとうゴリャートキンは勇気を振り絞ってサロンに顔を出したのである。
気がついて見ると、クラーラの真ん前に来ていた。もちろん一同は彼の姿に驚くが、彼はとりあえず挨拶して祝いの言葉を述べた。アンドレイ・フィリッポヴィッチがあきれて、恥を知れ、恥を、と言いクラーラの手を取ってゴリャートキンに背を向けてしまった。そのあとで、なんとかゴリャートキンはクラーラをダンスに誘おうと彼女に近づきその手を取ったが、彼女が悲鳴を上げたので、みんなが一斉に飛びかかって彼女をゴリャートキンの手から引き離した。ゴリャートキンは、やがて誰かに引っぱられ外套を頭から被せられて家の外に追い出された。
二重人格のあらすじ【転】
家の外に出た彼は打ちひしがれて、イズマイロフスキー橋の近くのフォンタンカの河岸を無我夢中で走っている時に、自分と瓜二つの男に出会う。それはまさしく自分の分身であった。分身の出現は仇敵たちによる策謀に違いないとゴリャートキンは考えた。案の定その翌日、この分身は役所にも現れ、同姓同名を名乗ってゴリャートキンの真ん前に座っていた。
初めは仲間のような素振りをみせ、ゴリャートキンに近づいて来たので彼を自宅に招き、ついうっかり彼に二人でうまく立ち回って敵の策謀を暴いてやろうと提案し、敵の秘密まで喋ってしまったのである。
ところが、次の日役所に出るとその新ゴリャートキンは、仕事では彼を出し抜き、瞬く間に同僚の信頼も得て、ゴリャートキンを次第に追いつめていくのである。ゴリャートキン氏は新ゴリャートキンを捕まえてその厚顔無恥な態度を責めるが、まるであざ笑うかのように彼を愚弄し、ヤーコフ・ペトロヴィッチ、冗談はよしにしましょうよ、二人でうまく立ち回るんでしょうが、と言ってのけたのである。
自分は破滅させられた、あいつらは皆ぐるだ、いずれはっきりさせてやるとゴリャートキンは固く心に誓う。だが、ゴリャートキンは新ゴリャートキンの出現によって確実に追いつめられていく。職場の同僚のヴァフラメーイェフからも絶交を言い渡される。ゴリャートキンもかつてヴァフラメーイェフとともにドイツ女性のカロリーナ・イワーノヴナの館に下宿していて、その頃ゴリャートキンはこのドイツ女性に入れ上げていた。
しかし、ゴリャートキンはその後下宿を出て召使い付きの家に移り、やがて高嶺の花であるクラーラ・オルスーフィイェヴナに恋するようになったのである。それは初めから望みのない横恋慕であった。
二重人格の結末・ラスト(ネタバレ)
ゴリャートキンは、ヴァフラメーイェフの下宿先から届けられたクラーラ・オルスーフィイェヴナからの手紙を受け取った。それには、望まない結婚を無理矢理父親にさせられようとしているので、どうか私を助け出して欲しい、今晩九時きっかりにオルスーフィイ・イワーノヴィッチの家の窓の下に馬車を用意して待っていてください、と書かれていた。彼女の誘いが非現実的なのものであることは充分承知していたが、ゴリャートキンは結局馬車を借り切り、そこに姿を現したのである。窓が一斉に開けられゴリャートキンは、みんなの前に引き出される。そしてクラーラや役所の同僚たちが見守るなか、彼はそこにやって来た医師のクレスチャン・イワノーヴィッチに引き渡され、そのまま精神病棟に収容されてしまうのである。
二重人格(ドストエフスキー)の評判・口コミ・レビュー
#読了
— ト・アペイロン (@apeiron1984) July 3, 2020
ドストエフスキー『二重人格』
『分身』とも訳される本作、一言で例えるならばペテルブルク版「世にも奇妙な物語」とでも言った所でしょうか。突如自分そっくりの人物が現れたら、その人物が自分が理想とするような(それゆえに自分の劣等感を逆撫でする鼻持ちならない)人物であったら。(続) pic.twitter.com/6HfIE8L25w
#読了#ドストエフスキー 『 #二重人格 』、小沼文彦・訳 岩波文庫
— みくら さんさんか (@acrosslinechang) October 8, 2020
辛抱して読み進めていたら途中から俄然面白くなり、後半は結構なスピードでページを繰っていました。
小沼訳は充分読み易いのだけれど……岩波文庫よ、光文社古典新訳文庫よ、これの新訳出してください。 pic.twitter.com/5NRROv2i4u
そういえば旅先でドストエフスキーの「二重人格」を読了。既にゴーゴリの影響を脱しかけており、彼の作品を通底しているテーマがかなり全面に押し出されている印象を受けた。あとは、父親という要素が出てくれば五大長編への道は見えてくる。
— たぬきの味噌煮込み (@tnknmsnkm) June 12, 2011