【おすすめ】直木賞受賞全作品を一覧であらすじを紹介します

直木賞、正式名称:直木三十五賞(なおきさんじゅうごしょう)は、無名・新人及び中堅作家による大衆小説作品に与えられる文学賞です。

かつては芥川賞と同じく無名・新人作家に対する賞でしたが、最近では新人作家の受賞は減少傾向。

中堅、ベテランの作家が受賞するようになってきました。事実上、優れた作品を発表した大衆文学作家に与えられる賞になっています。

おすすめ作品ランキング

長い記事なので、先におすすめランキングを紹介します!

  • 1位:浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』
  • 2位:熊谷達也『邂逅の森』
  • 3位:中村彰彦「二つの山河」
  • 4位:葉室麟『蜩ノ記』
  • 5位:恩田陸『蜜蜂と遠雷』

作品年表リスト

短編、中編が中心の芥川賞とは異なり、長編作品及び連作短編小説の受賞が多くなっています。

そのためか、芥川賞の「芥川賞全集」のように直木賞全集は発売されていません。初期の受賞作には絶版のものも多く、入手が困難で読みにくくなってしまっています。

第1回(1935年上半期) – 川口松太郎「鶴八鶴次郎」「風流深川唄」「明治一代女」

鶴賀鶴八と鶴次郎は女の三味線弾きに男の太夫と珍しい組み合わせの新内語り。若手ながらイキの合った芸で名人と言われる。内心では愛し合う二人だが、一徹な性格故に喧嘩が多く、晴れて結ばれる直前に別れてしまう。裕福な会席料理屋に嫁いだ鶴八と、人気を失い転落する鶴次郎。三年後再会した二人の行く末を描く表題作に『風流深川唄』など三編収録の傑作集。

第2回(1935年下半期) – 鷲尾雨工『吉野朝太平記』他

第3回(1936年上半期) – 海音寺潮五郎「天正女合戦」「武道傳來記」

第4回(1936年下半期) – 木々高太郎『人生の阿呆』他

比良カシウにはいっていたと思われるストリキニーネのために死者が出、比良家は家宅捜査を受けた。その時、物置小屋から無産党の弁護士の射殺体が発見される。そして、殺害時と目される日に、社長の息子良吉は、モスクワへ向けて旅立っていた……。直木賞を受賞し、著者の作家的地位を確立した作品を、初版の体裁を復元して愛好家に贈る。

第5回(1937年上半期) – 該当作品なし

第6回(1937年下半期) – 井伏鱒二『ジョン萬次郎漂流記』他

都を落ちのびて瀬戸内海を転戦する平家一門の衰亡を、戦陣にあって心身ともに成長して行くなま若い公達の日記形式で描出した「さざなみ軍記」。土佐沖で遭難後、異人船に救助され、アメリカ本土で新知識を身につけて幕末の日米交渉に活躍する少年漁夫の数奇な生涯「ジョン万次郎漂流記」。他にSFタイムスリップ小説の先駆とも言うべき「二つの話」を収める著者会心の歴史名作集。直木賞受賞。

第7回(1938年上半期) – 橘外男「ナリン殿下への回想」

第8回(1938年下半期) – 大池唯雄「兜首」「秋田口の兄弟」

第9回(1939年上半期) – 該当作品なし

第10回(1939年下半期) – 該当作品なし

第11回(1940年上半期) – 堤千代「小指」他

とある理由で両腕を切断してしまう軍人の元へ慰問に訪れた芸者。「自分の両腕を切ってしまう前に一度でいい、生れて初めて、そして最後にこの手で女の人の手にさわって見たい」と言われ…。第11回直木賞受賞作品。

第11回(1940年上半期) – 河内仙介「軍事郵便」

戦争中における、戦場から家族のもとへ日本人兵士が送った手紙。第11回直木賞受賞作品。

第12回(1940年下半期) – 村上元三「上総風土記」他

第13回(1941年上半期) – 木村荘十「雲南守備兵」

第14回(1941年下半期) – 該当作品なし

第15回(1942年上半期) – 該当作品なし

第16回(1942年下半期) – 田岡典夫「強情いちご」他

第16回(1942年下半期) – 神崎武雄「寛容」他

「寛容」は、英領下にあるインド人が、自らの日本観を新たにする経緯を書く。インド独立を夢見るドミイは、日本で商い、家庭を構え、根付きながらも「笑ふ人種」の日本人を軽んじている。「不良英人」として国外退去処分になっても、さしたるショックはなかった。

第17回(1943年上半期) – 山本周五郎「日本婦道記」(受賞辞退)

貴方と生きると決めた時、私は涙を捨てた―。
一生ものの愛。女性の強さ、美しさを描き切った31の名編。

妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であった――(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。

第18回(1943年下半期) – 森荘已池「山畠」「蛾と笹舟」

第19回(1944年上半期) – 岡田誠三「ニューギニア山岳戦」

第20回(1944年下半期) – 該当作品なし

第21回(1949年上半期) – 富田常雄「面」「刺青」他

アメリカでのボクシング対柔道の試合。日本の名誉を賭けて戦うが勝算はあるのか「転がり試合」。かつての伯爵で元勲だった老人が若い女を囲っていたが彼女には恋人があった「面」。若い女の刺青に魅せられた男が夢中になったのは……「刺青」。短編三本を収録

第22回(1949年下半期) – 山田克郎「海の廃園」

第23回(1950年上半期) – 今日出海「天皇の帽子」

第23回(1950年上半期) – 小山いと子「執行猶予」

第24回(1950年下半期) – 檀一雄「長恨歌」「真説石川五右衛門」

第25回(1951年上半期) – 源氏鶏太「英語屋さん」「颱風さん」「御苦労さん」

入社10年の風間京太は、気難しい社長の出張に随行を命じられた。お眼鏡に適えば、大出世。機嫌を損ねたら、お先真っ暗。社長は現地にいる元愛人との逢瀬を企んでいるが、夫人からは二人の密会を阻止せよ、と厳命されており…。風間の選択は!?(「随行さん」)ほか、サラリーマンの哀歓を描く全10編。不条理な職場や理不尽な上司に喘ぐ、若い読者こそ必読。働き方のヒントは、昭和の名作にあった!

第26回(1951年下半期) – 久生十蘭「鈴木主水」

第26回(1951年下半期) – 柴田錬三郎「イエスの裔」

第27回(1952年上半期) – 藤原審爾「罪な女」他

夫と子供の不在の一夜、強盗に踏みこまれた、一人の平凡な主婦と強盗との接点を、誰にでも日常的に起こり得る恐怖と描く心理サスペンス「赤い殺意」。貧しく不幸に生まれ、ただ一筋に男に尽くすしかない可愛い女を浮き彫りにする直木賞受賞「罪な女」。精細な心理描写の丹念な積み重ねと、定評のある女の情感描写の双方が響き合って、人間の哀しさと人間愛へと収斂されていく長短編の代表作を収録。

第28回(1952年下半期) – 立野信之「叛乱」

第29回(1953年上半期) – 該当作品なし

第30回(1953年下半期) – 該当作品なし

第31回(1954年上半期) – 有馬頼義『終身未決囚』

第32回(1954年下半期) – 梅崎春生「ボロ家の春秋」

「桜島」「日の果て」などの戦争小説の秀作をのこした梅崎春生のもう1つの作品系列、市井の日常を扱った作品群の中から、「蜆」「庭の眺め」「黄色い日日」「Sの背中」「ボロ家の春秋」「記憶」「凡人凡語」の計7篇を収録。諷刺、戯画、ユーモアをまじえた筆致で日常の根本をゆさぶる独特の作品世界。

第32回(1954年下半期) – 戸川幸夫「高安犬物語」

第33回(1955年上半期) – 該当作品なし

第34回(1955年下半期) – 新田次郎『強力伝』

五十貫もの巨石を背負って白馬岳山頂に挑む山男を描いた処女作「強力伝」。富士山頂観測所の建設に生涯を捧げた一技師の物語「凍傷」。太平洋上の離島で孤独に耐えながら気象観測に励む人びとを描く「孤島」。明治35年1月、青森歩兵第五連隊の210名の兵が遭難した悲劇的雪中行軍を描く「八甲田山」。ほかに「おとし穴」「山犬物語」。“山”を知り“雪”を“風”を知っている著者の傑作短編集。

第34回(1955年下半期) – 邱永漢「香港」

「香港」では、生きのびるためには考えることよりも逃げ足の速いことがまず第一、というヤミ屋や密輸人たちの明日を怖れぬしたたかな生き方をきざみつける人生を、――「濁水渓」では、けわしい戦後台湾の動乱渦中に帰国した学生の生き方を問う。 永遠に流浪する青春の二記念碑。

第35回(1956年上半期) – 南條範夫「燈台鬼」

遣唐副使として唐に渡ったまま行方不明となった父・石根(いわね)を求め、道麻呂(みちまろ)はかの地へ赴いた。二十数年の歳月を経て、ようやく出会った父は、あまりにもおぞましい姿に変わり果て……。 直木賞受賞の表題作のほか、オール新人杯第一回受賞作「子守りの殿」、異色作「水妖記」など初期の作品六編を収録。直木賞受賞までの歴史小説をすべて網羅した、巨匠の原点!

第35回(1956年上半期) – 今官一『壁の花』

第36回(1956年下半期) – 今東光「お吟さま」

第36回(1956年下半期) – 穂積驚「勝烏」

第37回(1957年上半期) – 江崎誠致『ルソンの谷間』

第38回(1957年下半期) – 該当作品なし

第39回(1958年上半期) – 山崎豊子『花のれん』

船場に嫁いだ多加は頼りない夫を立ててよく働くが、夫は寄席道楽に耽って店を潰す。いっそ道楽を本業にという多加の勧めで場末の寄席を買った夫は、借財を残したまま妾宅で死亡する。多加のなりふりかまわぬ金儲けが始まった。金貸しの老婆に取入り、師匠たちの背中まで拭い、ライバルの寄席のお茶子頭を引抜く──。大阪商人のど根性に徹した女興業師の生涯を描く直木賞受賞作。

第39回(1958年上半期) – 榛葉英治『赤い雪』

第40回(1958年下半期) – 城山三郎「総会屋錦城」

直木賞受賞の表題作は、株主総会の席上やその裏面で、命がけで暗躍する、財界の影武者ともいえる総会屋の老ボスを描く評判作。ほかに交通事故の時だけタクシー会社の重役の身代りで見舞いや弔問にゆく五十男の悲しみを描いた「事故専務」をはじめ、資本主義社会のからくり、陰謀などを、入念な考証に基づき、迫力あるスピード感と構成力で描く本格的な社会小説7編を収める。

第40回(1958年下半期) – 多岐川恭『落ちる』

第40回直木賞を受賞した短篇集『落ちる』より、自己破壊衝動に駆られる危うい精神状態の男の物語「落ちる」のほか、多彩な趣向に満ちた初期の秀作ミステリ4本を収録。

第41回(1959年上半期) – 渡辺喜恵子『馬淵川』

第41回(1959年上半期) – 平岩弓枝「鏨師」

無銘の古刀に名匠の偽銘を切って高価な刀剣にする鏨師。その並々ならぬ技術を見破る刀剣鑑定家。火花を散らす名人同士の対決に、恩愛のきずながからむ厳しい世界をしっとりと描いた第41回直木賞受賞作「鏨師」のほか、「神楽師」「つんぼ」「狂言師」「狂言宗家」など、著者が得意とする芸の世界に材を得た、平岩弓枝の世界のエッセンスが味わえる珠玉の初期作品集。あとがきに収められた、直木賞受賞時の初々しいエッセイと師匠・長谷川伸の暖かい序文も、平岩ファンには必読。

第42回(1959年下半期) – 司馬遼太郎『梟の城』

織田信長によって一族を惨殺された怨念と、忍者としての生きがいをかけて豊臣秀吉暗殺をねらう伊賀者、葛籠重蔵。その相弟子で、忍者の道を捨てて仕官をし、伊賀を売り、重蔵を捕えることに出世の方途を求める風間五平。戦国末期の権力争いを背景に、二人の伊賀者の対照的な生きざまを通して、かげろうのごとき忍者の実像を活写し、歴史小説に新しい時代を画した直木賞受賞作品。

第42回(1959年下半期) – 戸板康二「團十郎切腹事件」他

ミステリ史に燦然と輝く老歌舞伎役者・中村雅楽の名推理
第1巻は、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編

江戸川乱歩に見いだされ、旧「宝石」誌に掲載された「車引殺人事件」にはじまる、老歌舞伎役者・中村雅楽の推理譚。複雑な人間模様の歌舞伎界、芸能界を中心に起こる様々な事件や謎を竹野記者が持ち込むや、鮮やかに解き明かす。美しい立女形の失踪事件を解決する「立女形失踪事件」。旅先の旅館で自刃を遂げた八代目市川團十郎の謎を読み解く、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編。

第43回(1960年上半期) – 池波正太郎「錯乱」

第44回(1960年下半期) – 寺内大吉「はぐれ念仏」

念仏宗の内部にてくりひろげられる俗臭ふんぷんたる選挙戦の人間模様をコミカルかつ軽快な筆致で描き、第44回直木賞を受賞した表題作ほか、仏教テーマの哀感を誘う3編を収録。刊行後40年以上を経て、待望の初文庫化!

第44回(1960年下半期) – 黒岩重吾『背徳のメス』

大阪の施療院で、殺害未遂事件が起こった。被害者は、憑かれたように女をあさる、背徳産婦人科医だった。彼を憎み、うらむ者は多い。犯人追及の過程で浮び上がる、彼や容疑者たちの暗い過去……。戦争で青春を失い、宿命ともいえる業を背負って、吹き溜りにうごめく、人間の生きざまを描いた、社会派ミステリー。直木賞受賞作。

第45回(1961年上半期) – 水上勉「雁の寺」

“軍艦頭”と罵倒され、乞食女の捨て子として惨めな日々を送ってきた少年僧・慈念の、殺人にいたる鬱積した孤独な怨念の凝集を見詰める、直木賞受賞作『雁の寺』。竹の精のように美しい妻・玉枝と、彼女の上に亡き母の面影を見出し、母親としての愛情を求める竹細工師・喜助との、余りにもはかない愛の姿を、越前の竹林を背景に描く『越前竹人形』。水上文学の代表的名作2編。

第46回(1961年下半期) – 伊藤桂一「螢の河」

苛烈な戦場での日々に、死を凝視しつつ、なお友情、青春が息づく、その刻々を淡々と描いた、直木賞受賞作「螢の河」。堪え難い神経痛と耳鳴りに悩む“ぼく”が山奥での岩魚釣り中、不意に“生きてゆくこと”を深く認知する名作「源流へ」。「帽子と菜の花」「帰郷」「溯り鮒」「名のない犬」等、詩人の眼が捉えた、戦場、身辺、釣り、動物達との交歓。伊藤桂一の小説世界を開示する珠玉の名篇全10篇。

第47回(1962年上半期) – 杉森久英『天才と狂人の間』

第48回(1962年下半期) – 山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」

第48回(1962年下半期) – 杉本苑子『孤愁の岸』

財政難に喘ぐ薩摩藩に突如濃尾三川治水の幕命が下る。露骨な外様潰しの策謀と知りつつ、平田靭負ら薩摩藩士は遥か濃尾の地に赴いた。利に走る商人、自村のエゴに狂奔する百姓、腐敗しきった公儀役人らを相手に、お手伝い方の勝算なき戦いが始まった……。史上名高い宝暦大治水をグローバルに描く傑作長編。

第49回(1963年上半期) – 佐藤得二『女のいくさ』

第50回(1963年下半期) – 安藤鶴夫『巷談本牧亭』

東京・上野の本牧亭は、落語や講談の中心地として、人々に親しまれていた。そこにつどう落語家、講談師、なじみの客たち、そしてあるじ。客席、舞台、そして楽屋うらが一体となっての、ちょっと哀愁をただよわせた人間模様。芸を愛し育てた人々が住むどこか懐かしい別世界の物語。第50回直木賞受賞作。

第50回(1963年下半期) – 和田芳恵『塵の中』

第51回(1964年上半期) – 該当作品なし

第52回(1964年下半期) – 永井路子『炎環』

京の権力を前に圧迫され続けてきた東国に、ひとつの灯がともった。源頼朝の挙兵に始まる歴史のうねりは、またたくうちに関東の野をおおいはじめた。鎌倉幕府の成立、武士と呼ばれる者たちの台頭――その裏には、彼らの死にもの狂いの情熱と野望が激しく燃えさかっていた。鎌倉武士たちの生きざまを見事に浮き彫りにした傑作歴史小説にして第52回直木賞受賞作!

第52回(1964年下半期) – 安西篤子「張少子の話」

第53回(1965年上半期) – 藤井重夫「虹」

1950年敗戦直後の大阪。四国の田舎町から、広島から、名古屋から、丹波から天王寺駅界隈にすみついた戦災孤児たちはたくましく生きる。そのひとり、虹を見るといつも泣き出すカズヒコと交番の巡査との暖かい心の交流を、独特の大阪の匂いにのせて描いた第53回直木賞受賞作。表題作ほか「風土」「善界」「牧歌」「世染-私版・夫婦善哉」を含む珠玉短編集。

第54回(1965年下半期) – 新橋遊吉「八百長」

第54回(1965年下半期) – 千葉治平「虜愁記」

第55回(1966年上半期) – 立原正秋「白い罌粟」

日本と朝鮮の血を引く家系に生まれた兄弟が、戦争という得体の知れないものに翻弄されながらも、自分たちの存在を確かめようと、”血”とは何かを追求した「剣ケ崎」。
金貸業者を踏み倒す事を仕事にしている奇妙な男にひかれて、その不可解な魅力と付き合っているうちに、自らも破滅してゆく中年の教師を描いた「白い罌粟」。
没落寸前の旧家・壬生家。その終焉を闇夜に輝く篝火に象徴させ、従弟との愛を”死”で締め括った人妻を描いた「薪能」。
義弟との束の間の愛に燃えた若妻を描く「流鏑馬」、麻薬窟に出入りし、女と薬に溺れる男を描く「薔薇屋敷」。
直木賞受賞作、芥川賞候補作など立原正秋の代表短編5編を納めている。

第56回(1966年下半期) – 五木寛之「蒼ざめた馬を見よ」

ソ連の老作家が書いた痛烈な体制批判の小説。原稿の入手を命じられた外信部記者の鷹野は、新聞社を離れ、身分を偽ってソ連に潜入する。運よく手に入った小説は全世界でベストセラーとなり、ソ連は窮地に立つ。
ところが、その裏には驚くべき陰謀があった! --「蒼ざめた馬を見よ」

直木賞受賞作の表題作をはじめ、いまなお魅力を失わない初期の5編を
おさめた代表的作品集。

第57回(1967年上半期) – 生島治郎『追いつめる』

志田刑事は暴力団浜内組幹部を追跡中、同僚刑事を誤射して引責退官している。妻側からもらった離婚慰謝料を資本(もとで)に、志田前刑事の浜内組追及は続けられた。暴力団の“経営革命”すら行なって尻尾を出さぬ浜内組と孤独な退職刑事との凄まじい闘い! 直木賞を受賞し、ハードボイルドを日本の土壌に開花させた秀作!

第58回(1967年下半期) – 野坂昭如「アメリカひじき」「火垂るの墓」

昭和20年9月21日、神戸・三宮駅構内で浮浪児の清太が死んだ。蚤だらけの腹巻きの中にあったドロップの缶。その缶を駅員が暗がりに投げると、栄養失調で死んだ4歳の妹、節子の白い骨がころげ、蛍があわただしくとびかった――。
浮浪児兄妹の餓死までを独自の文体で印象深く描いた『火垂るの墓』、そして『アメリカひじき』の直木賞受賞の2作をはじめ、著者の作家的原点を示す6編。

第58回(1967年下半期) – 三好徹「聖少女」

無道徳だが、爽快な奔放さと埋められぬ空しさとをもつ少年少女を生き生きと捉えた直木賞受賞作「聖少女」のほか、「背後の影」「汚れた天使」など四篇を収録。

第59回(1968年上半期) – 該当作品なし

第60回(1968年下半期) – 陳舜臣「青玉獅子香炉」

第60回(1968年下半期) – 早乙女貢『僑人の檻』

第61回(1969年上半期) – 佐藤愛子『戦いすんで日が暮れて』

『九十歳、何がめでたい』の原点。弱気な夫と、巨額な借金を背負い込んで奮闘する妻を、独特のユーモアとペーソスで描く直木賞受賞作。ほかに『ひとりぽっちの女史」「佐倉夫人の憂愁」「結婚夜曲」などの傑作短篇7篇、新装版あとがきを収録。

第62回(1969年下半期) – 該当作品なし

第63回(1970年上半期) – 結城昌治「軍旗はためく下に」

陸軍刑法の裁きのもと、故国を遠く離れた戦場で、弁護人もないままに一方的に軍律違反者として処刑されていった兵士があった。理不尽な裁きによって、再び妻とも恋人とも会うことなく死んだ兵士の心情を、憤りをもって再現し、知られざる戦場の非情を戦後世代に訴える、直木賞受賞の著者代表作。

第63回(1970年上半期) – 渡辺淳一「光と影」

将来を嘱望された陸軍大尉の小武は右腕負傷の憂き目にあう。偶然にも同じ傷で同期の寺内と病院で一緒になるが、小武は切断、寺内は腕を残した施術となった。廃兵となった小武はしだいに転落の気分を味わうが、いっぽうの寺内は……。カルテの順番という小さな偶然がわけた人生の光と影を、的確なタッチで構築した直木賞受賞作に、人間の皮肉を巧みに描き出した「宣告」「猿の抵抗」、若く美しい女に潜む戦慄をあつかった「薔薇連想」の三篇を加えた卓抜な作品集。

第64回(1970年下半期) – 豊田穣『長良川』

一年余の闘病ののち妻は死んだ。残された二人の子を長良川に近い故郷にあずけ、一人で東京生活を送る男の胸によみがえる捕虜生活の屈辱の記憶。直木賞受賞作。

第65回(1971年上半期) – 該当作品なし

第66回(1971年下半期) – 該当作品なし

第67回(1972年上半期) – 綱淵謙錠『斬』

“首斬り浅右衛門(あさえむ)”の異名で天下に鳴り響き、罪人の首を斬り続けた山田家二百五十年の末路は、明治の維新体制に落伍しただけでなく、人の胆をとっては薬として売り、死体を斬り刻んできた閉鎖的な家門内に蠢く、暗い血の噴出であった。もはや斬首が廃止された世の中で、山田家の人間はどう生きればいいというのか。豊富な資料を駆使して時代の流れを迫力ある筆で描き、「歴史小説に新領域を拓いた」と絶讃を博した、第67回直木賞受賞の長篇大作。

第67回(1972年上半期) – 井上ひさし「手鎖心中」

材木問屋の若旦那、栄次郎ときたら、いずれ大店を継ぐ安楽な身の上のくせに、他人を笑わせ、他人に笑われ、ちょっぴり奉られもしたいがために、絵草紙の作者になりたいと思い焦がれている。悲しいかな、その才能は皆無なのだが、それを知らぬは本人ばかり。暢気でお調子者の若旦那を主人公としたこの小説、江戸・寛政期の風俗と実在の戯作者たち、洒落や地口を綺羅星のごとくちりばめて、あまりのばかばかしさに読者が吹きださずにはいられない、第六十七回直木賞受賞作の傑作時代小説。

第68回(1972年下半期) – 該当作品なし

第69回(1973年上半期) – 長部日出雄「津軽世去れ節」「津軽じょんから節」

世去れ節の大成功者、黒川桃太郎はなぜ貧困のうちに窮死したのか。直木賞受賞作「津軽世去れ節」「死者からのクイズ」「津軽じょんから節」「津軽十三蜆唄」「猫と泥鰌」「雪のなかの声」収録。

第69回(1973年上半期) – 藤沢周平「暗殺の年輪」

海坂(うなさか)藩士・葛西馨之介(けいのすけ)は成長するにつれ、周囲が向ける愍笑(びんしょう)の眼を感じるようになった。どうやら、18年前の父の横死と関係があるらしい。仲間から孤立する馨之介が、久しぶりに同門の貝沼金吾に誘われて屋敷へ行くと、待っていた藩の重役から、中老暗殺を引き受けろと言われ──武士の非情な掟の世界を、緻密な構成で描いた直木賞受賞作と、「黒い繩」「ただ一撃」「溟(くら)い海」「囮」の全5作品を収録した、初期傑作集。

第70回(1973年下半期) – 該当作品なし

第71回(1974年上半期) – 藤本義一「鬼の詩」

二〇一二年十月に亡くなった著者の代表作集。直木賞受賞作「鬼の詩」、運命的な師・映画監督川島雄三のモデル小説「生きいそぎの記」他、「贋芸人抄」「下座地獄」、講演「師匠・川島雄三を語る」。

第72回(1974年下半期) – 半村良「雨やどり」

舞台は新宿裏通りのバー街。「ルヰ」のバーテンダー仙田を主人公に、彼の前を通り過ぎて行く、いろいろな男と女の哀歓漂う人間模様を描き出す連作。直木賞受賞の表題作をはじめ、「おさせ伝説」「ふたり」「新宿の名人」など8編を収録。

第72回(1974年下半期) – 井出孫六『アトラス伝説』

第73回(1975年上半期) – 該当作品なし

第74回(1975年下半期) – 佐木隆三『復讐するは我にあり』

ここには、犯罪の出発から終結までの全てがある。昭和38年秋、福岡で起こった殺人事件の容疑者は、犯罪史上空前の捜査網をかいくぐり、詐欺と殺人を重ねながら、広島―静岡―東京―千葉―福島―北海道と逃げまわった。そして、78日間の逃避行の末、熊本で10歳の少女に正体を見破られて逮捕され、刑場に消えた。今村昌平監督・緒形拳主演で映画化された不朽の名作! 直木賞受賞作。

第75回(1976年上半期) – 該当作品なし

第76回(1976年下半期) – 三好京三『子育てごっこ』

東北の寒村で小学校教師をしている夫妻が、ひょんなことから学校に通ったことのない少女・吏華を預かることになった。吏華は5歳のころより老画家に連れられて、住まいを転々としていたのだ。
厳格な<男先生>と社会常識のかけらも身につけていない吏華、その間に立って右往左往する<女先生>の波乱の日々が始まる――。
子育てとは、教育とは何かを問う問題作で、1976年に第41回文學界新人賞、第76回直木賞を受賞。1979年には映画化され大きな反響を呼んだ。
より事実をなぞっているといわれる姉妹作「親もどき〈小説・きだみのる〉」を同時収録。

第77回(1977年上半期) – 該当作品なし

第78回(1977年下半期) – 該当作品なし

第79回(1978年上半期) – 津本陽「深重の海」

【第79回直木賞受賞作】紀伊半島は南東部、太地湾辺りは古くから鯨取りで栄えた土地柄である。明治11年12月24日、熊野灘の沖に現われた一頭の巨大鯨。小舟に乗った数百人の男たちが立ち向かう。これが大遭難、世にいう“背美流れ”の発端となり、慶長年間からの伝統的な捕鯨組織が崩壊しはじめる。明治の激流に呑まれ、滅びゆく運命をたどる海人たち。愛と闘いをドラマチックに描いた感動の長編。

第79回(1978年上半期) – 色川武大「離婚」

「ことさら深刻ぶるのはよそうぜ」などとカッコいいせりふを吐いてぼくたち二人はおたがい納得して「離婚」したのです。ところがどこでどうなってしまったのでしょうか、ぼくはいつのまにか、「もと女房」のアパートに住みついてしまって……。男と女のふしぎな愛と倦怠の形を、味わい深い独特の筆致で描き出した第七十九回直木賞受賞作品。さらに表題作の続篇の形で書かれた「四人」「妻の嫁入り」、前篇ともいえる「少女たち」の三篇を併録した。

第80回(1978年下半期) – 宮尾登美子『一絃の琴』

直木賞受賞作。土佐藩の上士の娘・苗は、祖母・袖の嗜みであった一絃琴を5歳の時に初めて聴き、その深い音色に魅せられた。運命の師有伯と死別した後、結婚生活で一度は封印したものの、夫の理解を得て市橋塾を始め、隆盛を極めた。その弟子となった蘭子は苗との確執の果て、一絃琴の伝統を昭和に伝える(講談社文庫)。

第80回(1978年下半期) – 有明夏夫『大浪花諸人往来』

文明開化期の大阪の町を舞台とした異色捕物小説。36話からなる浪花の源蔵召捕記事の全編を全5巻に収録。
本巻では第80回(昭和53年下半期)直木賞受賞作品の「大浪花諸人往来」(角川書店)所収の、西郷はんの写真、天神祭の夜、尻無川の黄金騒動、大浪花別嬪番付、鯛を捜せ、人間の皮を剝ぐ男の6編を収録。
多くの捕物小説が江戸時代の江戸を舞台とする中で、明治初年の文明開化期、しかも大阪の町を舞台としたという極めてユニークな設定の捕物小説であるとともに、大阪人の心意気や、文明開化に伴う急激な世相の変化に翻弄される庶民の心情がユーモラスに描かれた傑作。

第81回(1979年上半期) – 田中小実昌「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」

第81回(1979年上半期) – 阿刀田高『ナポレオン狂』

自らナポレオンの生まれ変りと信じ切っている男、はたまたナポレオンの遺品を完璧にそろえたいコレクター。その両者を引き合わせた結果とは?ダール、スレッサーに匹敵する短篇小説の名手が、卓抜の切れ味を発揮した直木賞受賞の傑作集。第32回日本推理作家協会賞受賞の「来訪者」も収録する。

第82回(1979年下半期) – 該当作品なし

第83回(1980年上半期) – 向田邦子「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」

浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。

第83回(1980年上半期) – 志茂田景樹『黄色い牙』

直木賞受賞の不朽の名作、待望のリニューアル。
 家族の絆、人間と動物の熱い交流。失われた価値を求めて今、圧倒的な注目を集める話題作がついに電子書籍で復刊!

 秋田山中で狩猟によって生活しているマタギの社会を迫真力に富んだ筆致で描いている。
 マタギの頭領をシカリというが、主人公のシカリ・佐藤継憲の目を通して、近代化に向かう日本社会のなかでしだいに滅びに向かうマタギ社会の悲哀が伝わってくる。大自然と動物、動物と人間とのかかわりも巧みに描写されているが、とくに主人公と、その宿怨の敵である巨大なツキノワグマの鬼黒との決闘シーンは手に汗を握らせられる。
 スケールの大きい動物小説として、文句なしの傑作。現代の乱脈な自然開発、環境汚染に警鐘を鳴らしている側面もあり、心おこしが叫ばれる今、再び脚光を浴びている。

第84回(1980年下半期) – 中村正軌『元首の謀叛』

ある日、東ドイツの国境監視塔が轟音とともに崩れ落ちた。一方、ソ連軍や東独軍が不審な動きを見せ始めた。西側への侵攻準備だろうか? 各国の首脳が疑心暗鬼におちいっている間に、一人の東独空軍中尉が、密かに西ドイツに潜入した。彼は東独書記長の親書を西独首相に手渡すという、重大な秘密任務を帯びていた。東独書記長ホーネッカーは、ソ連の圧制からのがれ、東西ドイツの統一を実現するために、驚くべき手段を講じようとしていた。直木賞受賞の傑作国際謀略小説。

第85回(1981年上半期) – 青島幸男『人間万事塞翁が丙午』

呉服問屋が軒をつらねる東京・日本橋堀留町の仕出し弁当屋〈弁菊〉。人情味豊かであけっぴろげ、良くも悪くもにぎやかな下町に、21歳で嫁いできたハナは、さまざまな事件に出会いながらも、持ち前のヴァイタリティで乗り切ってゆく。――戦中から戦後へ、激動の時代をたくましく生きた庶民たちの哀歓を、自らの生家をモデルにいきいきと描き出した、笑いと感動の下町物語。直木賞受賞。

第86回(1981年下半期) – つかこうへい『蒲田行進曲』

第86回直木賞受賞作! 時代を超えて愛されるつかこうへいの代表作!

大部屋俳優のヤスは、スターの銀ちゃんからかつてのスター女優・小夏を押しつけられる。大好きな銀ちゃんの言うままに、銀ちゃんの子を妊娠した小夏のために危険な仕事を受け続けるヤスだったが……!?

第86回(1981年下半期) – 光岡明『機雷』

第87回(1982年上半期) – 深田祐介『炎熱商人』

中堅商社のマニラ事務所長小寺は本社の要請で未経験のラワン材取引きに手を染めた。しかし現地の人々との信頼の上にビジネスを進めようとする彼の前に、厳しい現実が次々とたちはだかってくる……。炎熱の地で困難な国際ビジネスに情熱を燃やす男たち。しかもそこは戦争の傷跡を色濃く残す地であった。第二次大戦当時の日本軍とフィリッピン人との関わり合いを一方に、現代の国際商戦をもう一方に置いて語る巧みな展開と、壮大なスケールで描きあげられた直木賞受賞作品。

第87回(1982年上半期) – 村松友視「時代屋の女房」

骨董屋を舞台に愛と人情を描いた直木賞作品。

銀色の日傘をくるくる回しながら子猫のアブサンと夏の盛りにふらっとやってきた真弓が、「時代屋」の女房として居着いたのは5年前のことだった。

東京は大井町の一隅にある骨董屋を舞台に、男女の淡く切ない恋情と、市井の人々との心温まる日常を味わい深く描いて第87回直木賞を受賞した「時代屋の女房」。

後に映画化もされ話題を呼んだ秀作と、追われた男と不思議な2人の老人、匿われていた女の“仮名の男女”が演じ合う夢幻劇のようなひと夏の出来事を描いた「泪橋」、著者による新たなあとがきも併せて収録。

第88回(1982年下半期) – 該当作品なし

第89回(1983年上半期) – 胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』

「軍隊は運隊だ」という言葉どおり、運悪く、敗戦と同時に送りこまれたモンゴルの収容所は、まさにこの世の地獄だった。軍律の崩壊した集団に君臨するやくざあがりの大ボス・小ボス。食糧といえば、黒パンとわずかなスープ、それも搾取され、強制労働にかり出される毎日。栄養失調、疾病、私刑で、つぎつぎと失われる生命。襲いくる不条理に耐えながら、帰国を待ち侘びる日々を支えてくれたのは、小説と映画と流行歌への熱い思いだった。死んでいった戦友たちへの祈りをこめた第89回直木賞受賞作。

第90回(1983年下半期) – 神吉拓郎『私生活』

都会人の日常生活の裏側を描いた名作短編集。

自らを「瑣事観察者」と称する神吉拓郎が、都会の日常生活の裏側――〈私生活〉に潜むちょっとしたドラマを、歯切れのいい文章で活写した短編集。
ある真面目な銀行マンが、夜には別の一面を垣間見せる「つぎの急行」、平凡なサラリーマンが、会社のカネの横領を企む「警戒水位」、ダッチワイフに入れあげる初老の男に訪れた悲劇を描く「小夜子」、真面目だと思っていた家政婦が衝撃的な素顔を見せる「もう一人の女」など、17のエピソードを収録。
一つひとつの作品は短いが、それぞれに違った余韻をもたらす名作で、第90回直木賞に輝いた。

第90回(1983年下半期) – 高橋治「秘伝」

巨魚に挑む男たちを描いた直木賞受賞の大ロマン。長崎県西彼杵半島の西海岸を舞台に、二人の釣り名人と怪魚イシナギの死闘劇の幕は切って落とされた。まるで潜水艦のような黒い影が潜む海中に、特殊な工夫を施した必殺の仕掛けが送り込まれていった……。他に中編「赤い海」を収録。

第91回(1984年上半期) – 連城三紀彦『恋文』

第91回(1984年上半期) – 難波利三『てんのじ村』

大阪は通天閣の下に、漫才師、奇術師、浪曲師といった芸人たちがあつまり住む一郭“てんのじ村”があった。戦前、戦後、そして高度経済成長期と、大阪芸人の活躍の場が、寄席からラジオ、テレビへと移りゆくなか、時代の波にとり残された八十二歳と五十五歳の漫才コンビ。しかし、その二人に、たった一度だけ華やかなテレビのスポット・ライトが当てられる日が来たのだが──。身を寄せあって生きていく善意の人々の哀歓を、しみじみと描いた第91回直木賞受賞作。

第92回(1984年下半期) – 該当作品なし

第93回(1985年上半期) – 山口洋子「演歌の虫」「老梅」

演歌歌手を育てて世に出すことに情熱を燃やすレコード会社のディレクターの夢と挫折を、冷めているようで暖かい女性作詞家の眼で描く「演歌の虫」、毎日美しく髪を結っては旦那が訪ねて来るのを待ち続ける老芸妓の心境を淡々と描く「老梅」の第93回直木賞受賞作2作のほか、だめな男に金を貢ぐのをやめられない女の心理をおそろしいほど正確に描く小説「貢ぐ女」、プロ野球選手とポルノ女優のしがらみを生々しく描く「弥次郎兵衛」を収録した著者会心の短篇集。

第94回(1985年下半期) – 森田誠吾『魚河岸ものがたり』

だれもが「かし」と呼ぶ隅田河口のまちに、ひとつの秘密を抱いた青年が住みついた。そこに住む人にとって、「どこの誰か」よりも「どんな誰か」が大切なまち。そんなまちの心優しい人々とともに彼は暮らし、〈秘密〉から解放される日の来るのを待っていた。心ならずも魚河岸の町に身をひそめた青年と、まちの人々との人間模様を情感こまやかに描き出した長編小説。直木賞受賞作。

第94回(1985年下半期) – 林真理子「最終便に間に合えば」「京都まで」

OLから造花クリエーターに転進した美登里は、旅行先の札幌で七年前に別れた男と再会する。身勝手と独占の欲望にさいなまれた苦々しい思い出は、いつしか甘美な記憶にとってかわり、空港へと向かうタクシーの中で美登里を誘ってくる男に、彼女は感情の押さえがたい力をおぼえるようになるが……。大人の情事を冷めた目で捉えた表題作に、古都を舞台に年下の男との甘美な恋愛を描いた「京都まで」の直木賞受賞二作品ほかを収録する充実の短篇集。

第95回(1986年上半期) – 皆川博子『恋紅』

遊女屋の愛娘ゆうは大勢の花魁や男衆の中で、華やかな郭の裏も表も見て育った。ある日、芝居見物に出かけたゆうは、升席にいる男を見て衝撃を受ける。五年前、雑踏で途方にくれていたゆうを救い、優しさで包み込んでくれた旅役者だった。一緒になれるなら滅びてもいい――。そう心に刻んだ幼い日の記憶を頼りに、無名の役者に縋りついていく女の情念の世界を描く、直木賞受賞作。

第96回(1986年下半期) – 逢坂剛『カディスの赤い星』

フリーのPRマン・漆田亮は、得意先の日野楽器から、ある男を探してくれと頼まれる。男の名はサントス、20年前スペインの有名なギター製作家ホセ・ラモスを訪ねた日本人ギタリストだという。サントス探しに奔走する漆田は、やがて大きな事件に巻き込まれてゆく。直木賞を受賞した、著者の代表傑作長編。

第96回(1986年下半期) – 常盤新平『遠いアメリカ』

夢のアメリカに恋い焦がれた若者の青春小説

戦後10年目の1955年、日本人はまだ貧しい生活を送りながら、大国アメリカの豊かな物質文化や娯楽産業に憧れをいだいていた。

クリーネックス・ティシューや雑誌「ヴォーグ」、そしてハリウッド映画。そんな時代に、20代半ばの青年・重吉と演劇に没頭している椙枝は二人で愛をはぐくんでいた。一向に見えない自分たちの将来に悪戦苦闘しながらも愛と希望だけを頼りに生きる、往時の若者たちが瑞々しく描かれる。

全4編からなる第96回直木賞受賞作。

第97回(1987年上半期) – 白石一郎『海狼伝』

戦国時代終盤、対馬――。松浦党の一族であった母とともに海と船へのあこがれを抱いて育った少年・笛太郎は、航海中、瀬戸内海を根城とする村上水軍の海賊衆に捕えられた。笛太郎は瀬戸内まで連行されるが、そこで自分が村上水軍の将の息子であることがわかり、それからは海賊衆とともに行動するように。その後笛太郎は織田信長の水軍との海戦に加わるなど力量を発揮、比類なき「海の狼(ウルフ)」へと成長していった……。
日本の海賊の姿を詳細にかつ生き生きと活写し、海に生きる男たちの夢とロマンを描いた海洋冒険時代小説の最高傑作。第97回直木賞受賞作。

第97回(1987年上半期) – 山田詠美『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』

初恋も、喧嘩別れも、死に別れも、そして旅立ちの日も、暖かく心に蘇らせるソウル・ミュージックが響く連作恋愛小説。大センセーションを巻き起こした直木賞受賞作にして、著者の代表作。

第98回(1987年下半期) – 阿部牧郎『それぞれの終楽章』

自殺した同級生の葬儀に故郷秋田を訪れた作家がふりかえる自らの生の軌跡。友と聴いたクラシック、仲間と励んだ雪の中の野球……万引事件や生家の破産を越えて胸に迫るのは懐しい思い出の数々。人生の終楽章を迎えて、自分を支えてくれた友人、父の愛、妻の献身に気づく。胸を打つ感動的な直木賞受賞作。

第99回(1988年上半期) – 西木正明「凍れる瞳」「端島の女」

BC級戦犯として処刑された男と甲子園を目指し投げ合った元巨人軍投手スタルヒンを描く表題作と「端島の女」の直木賞受賞作を含む作品集。「頭領と親友」「夜の運河」収録。

第99回(1988年上半期) – 景山民夫『遠い海から来たCOO』

少年の素直さに驚くエンターテインメントの傑作!

六千万年以上も昔に絶滅したはずのプレシオザウルスの子を発見した洋助。奇跡の恐竜クーと少年とのきらめく至福の日々がはじまったが……。直木賞にかがやく、感動の冒険ファンタジー。

第100回(1988年下半期) – 杉本章子『東京新大橋雨中図』

最後の木版浮世絵師といわれた光線画家・小林清親の波瀾に充ちた半生と江戸から明治に移りかわる風俗、庶民の生きざまをあざやかに描いた第百回直木賞受賞の長篇。

第100回(1988年下半期) – 藤堂志津子「熟れてゆく夏」

夏。北海道。瀟洒なリゾート・ホテル。共通の“女主人”を、それぞれの思いで待ち受ける、美しく不安な若い男女。ときに反発しあい、ときには狎れあいながら、たゆたゆと待つ日々が過ぎてゆく。女主人の望みはいったい何なのか?愛と性のかかわりの背後にうごめくエゴイズムや孤独感、焦躁感、そして混沌とした愛欲の世界をあざやかに描いた表題作は、第100回直木賞受賞作。藤堂作品の原型がここにある。他に「鳥、とんだ」「三月の兎」の二篇を収録する。

第101回(1989年上半期) – ねじめ正一『高円寺純情商店街』

高円寺駅北口「純情商店街」。魚屋や呉服屋、金物店などが軒を並べる賑やかな通りである。正一少年は商店街の中でも「削りがつをと言えば江州屋」と評判をとる乾物屋の一人息子だった――。
感受性豊かな一人の少年の瞳に映った父や母、商店街に暮らす人々のあり様を丹念に描き「かつてあったかもしれない東京」の佇まいを浮かび上がらせたハートウォーミングな物語。
直木賞受賞作。

第101回(1989年上半期) – 笹倉明『遠い国からの殺人者』

「男の人が倒れている」110番通報の女の声には妙ななまりがあった──。マンションで死んでいたのは大学を中退した無職の若い男。姿をくらましたのは同居していた外国人ストリップ・ダンサー。彼女の身に一体何が起こったのか。彼女はなぜ真の素性を偽らなければならなかったのか。「じゃぱゆきさん」と呼ばれた外国人女性たち、経済大国ニッポンの底辺に生きる彼女たちの姿が、法廷での関係者の供述から次第に明らかにされていく。感動の直木賞受賞作品。

第102回(1989年下半期) – 星川清司「小伝抄」

おとこ狂いの浄瑠璃語りにかなわぬ想いをよせる醜い船頭の哀切な物語。江戸情緒ゆたかな驚異の語り口で直木賞を受賞した表題作と、世話物語の佳品「憂世まんだら」を収める話題作!

第102回(1989年下半期) – 原尞『私が殺した少女』

まるで拾った宝くじが当たったように不運な一日は、一本の電話ではじまった。私立探偵の沢崎は依頼人からの電話を受け、目白の邸宅へと愛車を走らせた。だが、そこで彼は自分が思いもかけぬ誘拐事件に巻き込まれていることを知る……緻密なストーリー展開と強烈なサスペンスで読書界を瞠目させた直木賞受賞作。

第103回(1990年上半期) – 泡坂妻夫『蔭桔梗』

紋章上絵師の章次のもとに、かつて心を寄せあっていた女性から、二十年前と同じ蔭桔梗の紋入れの依頼があった。あの時は事情があって下職に回してしまったのだが、それは彼女が密かな願いをかけて託した紋入れだった……。微妙な愛のすれ違いを描き直木賞受賞作となった表題作はじめ、下町の職人世界と大人の男女の機微を、しっとりと描いた十一編の物語を収録する、珠玉の短編集。

第104回(1990年下半期) – 古川薫『漂泊者のアリア』

“歌に生き恋に生き”た世界的に名を馳せたオペラ歌手藤原義江。英国人の貿易商を父に、下関の琵琶芸者を母に持った義江の波瀾の人生を描いた直木賞受賞作。

第105回(1991年上半期) – 宮城谷昌光『夏姫春秋』

直木賞受賞作。「力」が現世の全てを制していた当時、大国の横車に押し切られる小国鄭に、美しい公女が居た。

第105回(1991年上半期) – 芦原すなお『青春デンデケデケデケ』

第106回(1991年下半期) – 高橋義夫「狼奉行」

出羽の雪深き山里に赴任した青年は深い失意の日々を送るが、策略をかわし苦難に耐え、逞しい武士に変貌を遂げていく。感動と共感の直木賞作品。「厦門心中」「小姓町の噂」併録。

第106回(1991年下半期) – 高橋克彦『緋い記憶』

生まれ故郷の古い住宅地図には、あの少女の家だけが、なぜか記されていなかった。あの家が怖くて、ずっと帰らなかったのに。同窓会を口実に、ひさしぶりに故郷を訪ねた主人公の隠された過去、そして彼の瞼の裏側に広がる鮮やかな“緋色のイメージ”とは、一体何なのか……。直木賞受賞の傑作ホラー。表題作ほか、選考委員の激賞を受けた「ねじれた記憶」など、粒よりの七篇を収録。痺れるように怖いのに、とてつもなく懐かしい――高橋克彦ならではの独自の世界を満喫できます。

第107回(1992年上半期) – 伊集院静『受け月』

人が他人のために祈る時、どうすれば通じるのだろうか。表題作ほか、選考委員の激賞を受けた「切子皿」など大人のための小説七篇

第108回(1992年下半期) – 出久根達郎『佃島ふたり書房』

佃島を舞台に描くひたむきな愛、男ふたりの友情。
生年月日がまったく同じの2人の少年が、奉公先の古書店で親しくなった。名は、梶田郡司と工藤六司。大逆事件の明治末年から、佃の渡しが消える昭和39年までの世相を背景に、古書を愛する庶民の哀歓を描く感動の長編。

第109回(1993年上半期) – 高村薫『マークスの山』

「マークスさ。先生たちの大事なマ、ア、ク、ス! 」。あの日、彼の心に一粒の種が播かれた。それは運命の名を得、枝を茂らせてゆく。南アルプスで発見された白骨死体。三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人。《殺せ、殺せ》。都会の片隅で恋人と暮らす青年の裡には、もうひとりの男が潜んでいた。警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、黒一色の山。

第109回(1993年上半期) – 北原亞以子『恋忘れ草』

女浄瑠璃、手習いの師匠、料理屋の女将など江戸の町を彩るキャリアウーマンたちの心模様を描く直木賞受賞作。「恋風」「男の八分」「後姿」「恋知らず」「恋忘れ草」他一篇収録。

第110回(1993年下半期) – 佐藤雅美『恵比寿屋喜兵衛手控え』

争いは世の常、人の常。江戸の世で、その争いの相談所が恵比寿屋のような公事宿だ。ある日、若者が恵比寿屋を訪れ、兄が知らぬ男に金を返せと訴えられたと相談した。喜兵衛は怪しい臭いを感じとる。事件の真相は如何に? 江戸の街に生きる市井の人々を、愛情込めて描く長編時代小説。第110回直木賞受賞作。

第110回(1993年下半期) – 大沢在昌『新宿鮫 無間人形』

手軽でお洒落。若者たちの間で流行っている薬「アイスキャンディ」の正体は覚せい剤だった。密売ルートを追う鮫島(さめじま)は、藤野(ふじの)組の角(すみ)を炙り出す。さらに麻薬取締官の塔下(とうげ)から、地方財閥・香川(かがわ)家の関わりを知らされる。薬の独占を狙う角、香川昇・進兄弟の野望……。薬の利権を巡る争いは、鮫島の恋人・晶(しょう)まで巻き込んだ。鮫島は晶を救えるか!? 直木賞受賞の感動巨編!

第111回(1994年上半期) – 中村彰彦「二つの山河」

かれらも祖国のために戦ったのだから―。
大正初め、第一次大戦でドイツに宣戦布告した日本は、中国大陸で多数のドイツ人を俘虜とし、日本に送った。多くの収容所は過密で環境は劣悪だった。そんな中、徳島の板東収容所では例のない寛容な処遇がなされた。ドイツ人俘虜によるオーケストラを結成。日本人将兵・市民とドイツ人俘虜との交歓を実現した。板東収容所の所長、真のサムライと讃えられた会津人・松江豊寿。なぜ彼は陸軍の上層部に逆らっても信念を貫いたのか。そこには、国のために戦ったにもかかわらず明治にあって辛苦をなめた会津出身者としての思いがあった。国境を越える友愛を描いた直木賞受賞作。。
二ほかに戊辰戦争での結城藩の戦いを描く「臥牛城の虜」、会津による薩摩邸焼き討ちの逸話「甘利源治の潜入」を収録。

第111回(1994年上半期) – 海老沢泰久『帰郷』

エンジンが大好きな組立工がいた。故郷の自動車エンジン工場勤務から、ある日、F1チームのエンジン組み立てメンバーに選ばれた。サーキットを転戦して世界を回る毎日。すばらしい日々だ。帰国休暇にはガールフレンドに土産をやり、土産話をするのも、その栄光の一部だった。3年の出向期間が終わり、故郷に戻った男を待っていたのは、しかし味気ない、退屈な生活だった──喜びのあとに訪れる悲しさ、“成熟と喪失”を描いた第111回直木賞受賞作ほか、傑作短篇が全6篇。

第112回(1994年下半期) – 該当作品なし

第113回(1995年上半期) – 赤瀬川隼『白球残映』

永遠の野球少年の胸に染み入る直木賞短篇集。

思春期の頃、年齢の近い叔母に密かに寄せた熱い恋心。亡くして初めて知った父の意外な一面。トレードに出されたベテラン・プロ野球選手とリストラ進行中の会社に勤める中堅社員という、岐路に立たされた男2人の友情。輝かしい成績を残しながらも突如プロ球界を去った名投手の秘密……。

野球をモチーフに、野球少年なら誰しもが通過するホロ苦い挫折、郷愁などをさわやかに描いた短篇集(野球描写がない作品を1編収録)。胸に染み入る第113回直木賞受賞作。

第114回(1995年下半期) – 小池真理子『恋』

1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。

第114回(1995年下半期) – 藤原伊織『テロリストのパラソル』

ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。死傷者五十人以上。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながらも、事件の真相に迫ろうとする――。小説史上に燦然と輝く、唯一の乱歩賞&直木賞ダブル受賞作!

第115回(1996年上半期) – 乃南アサ『凍える牙』

深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた――。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。

第116回(1996年下半期) – 坂東眞砂子『山妣』

明治末期、文明開化の波も遠い越後の山里。小正月と山神への奉納芝居の準備で活気づく村に、芝居指南のため、東京から旅芸人が招かれる。不毛の肉体を持て余す美貌の役者・涼之助と、雪に閉ざされた村の暮らしに倦いている地主の家の嫁・てる。二人の密通が序曲となり、悲劇の幕が開いた――人間の業が生みだす壮絶な運命を未曾有の濃密さで描き、伝奇小説の枠を破った直木賞受賞作。

第117回(1997年上半期) – 篠田節子『女たちのジハード』

保険会社に勤める異なるタイプの女性たち。結婚、仕事、生き方に迷い、挫折を経験しながらも、たくましく幸せを求めてゆく。現代OL道を生き生きと描く、第117回直木賞受賞作。

第117回(1997年上半期) – 浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』

娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた―。心を揺さぶる“やさしい奇蹟”の物語…表題作はじめ、「ラブ・レター」「角筈にて」など8編収録。第117回直木賞受賞作。

第118回(1997年下半期) – 該当作品なし

第119回(1998年上半期) – 車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』

文壇を騒然とさせた第119回直木賞受賞作。
アパートの一室で、「私」は来る日も来る日も、モツを串に刺し続けた。尼ヶ崎のはずれにある、吹き溜まりの町。向いの部屋に住む女「アヤちゃん」の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―ー。二人の逃避行が始まる。
救いのない人間の業と情念。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の姿を描き切った傑作。異色の私小説作家・車谷長吉の代表作。

第120回(1998年下半期) – 宮部みゆき『理由』

東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。そもそも事件はなぜ起こったのか。事件の前には何があり、後には何が残ったのか。ノンフィクションの手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの最高傑作。

第121回(1999年上半期) – 佐藤賢一『王妃の離婚』

1498年フランス。時の王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟は、王の思惑通りに進むかと思われた。が、零落した中年弁護士フランソワは裁判のあまりの不正に憤り、ついに窮地の王妃の弁護に立ち上がる。かつてパリ大学法学部にその人ありと謳われた青春を取り戻すために。正義と誇りと、そして愛のために。手に汗握る中世版法廷サスペンス。第121回直木賞受賞の傑作西洋歴史小説。

第121回(1999年上半期) – 桐野夏生『柔らかな頬』

私は子供を捨ててもいいと思ったことがある――。
衝撃のラストが議論を呼んだ直木賞受賞作。

カスミには、家出して故郷の北海道を捨てた過去がある。
だが、皮肉にも北海道で幼い娘が失踪を遂げる。
じつは夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。

罪悪感に苦しむカスミは一人、娘を探し続ける。
四年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは――。

第122回(1999年下半期) – なかにし礼『長崎ぶらぶら節』

長崎・丸山遊里の芸者愛八が初めて本当の恋をしたのは、長崎学の確立を目指す研究者・古賀十二郎だった。「な、おいと一緒に、長崎の古か歌ば探して歩かんね」。古賀の破産を契機に長崎の古い歌を求めて苦難の道を歩み始める二人と、忘れられた名曲「長崎ぶらぶら節」との出会い。そして、父親のいない貧しい少女・お雪をはじめ人々に捧げた愛八の無償の愛を描いた、第122回直木賞受賞作。

第123回(2000年上半期) – 船戸与一『虹の谷の五月』

【第123回直木賞受賞作!】トシオ・マナハン、13歳。フィリピン、セブ島のガルソボンガ地区に祖父と住み、闘鶏用の軍鶏を育てる日々だった。奥地の「虹の谷」には元新人民軍のゲリラ、ホセ・マンガハスがひとり住みついて闘い続けている。そこへ行く道はトシオしか知らない。日本から戻ってきたクイーンを谷に案内したことから、トシオはゲリラたちの内紛に巻きこまれていく。直木賞受賞の壮大な少年の成長物語。

第123回(2000年上半期) – 金城一紀『GO』

広い世界を見るんだ–。 待望の新装完全版登場!

僕は《在日韓国人》に国籍を変え、都内の男子高に入学した。広い世界へと飛び込む選択をしたのだが、それはなかなか厳しい選択でもあった。ある日僕は、友人の誕生パーティーで一人の女の子に出会って――。

第124回(2000年下半期) – 山本文緒『プラナリア』

「何もかもが面倒くさかった。生きていること自体が面倒くさかったが、自分で死ぬのも面倒くさかった。だったら、もう病院なんか行かずに、がん再発で死ねばいいんじゃないかなとも思うが、正直言ってそれが一番恐かった。矛盾している。私は矛盾している自分に疲れ果てた。」(本文より)乳ガンの手術以来、25歳の春香は、周囲に気遣われても、ひたすらかったるい自分を持て余し……〈働かないこと〉をめぐる珠玉の5短篇。絶大な支持を得る山本文緒の、直木賞受賞作!

第124回(2000年下半期) – 重松清『ビタミンF』

このビタミンは心に効きます。疲れた時にどうぞ。「家族小説」の最高峰。直木賞受賞作!
38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか——」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。直木賞受賞作。

第125回(2001年上半期) – 藤田宜永『愛の領分』

妻に先立たれ、一人息子を育てながら静かに仕立て屋を営む中年の男。28年ぶりに突然現れた、かつての親友。その妻で、むかし男が恋焦がれた女。そして35年ぶりに訪れた故郷で出会い、男が年齢差を超えて魅かれる絵描きの女。度重なる再会が、互いのあやうい過去を明らかにしていく。許したいけど許せない、忘れたくても忘れられないことが4人には多すぎた……。大人の男女の愛憎、心の陰影を妖しく描いた直木賞受賞作。母親への想いを綴った、自伝エッセイも収録。

第126回(2001年下半期) – 山本一力『あかね空』

希望を胸に身一つで上方から江戸へ下った豆腐職人の永吉。己の技量一筋に生きる永吉を支えるおふみ。やがて夫婦となった二人は、京と江戸との味覚の違いに悩みながらもやっと表通りに店を構える。明るく気丈なおふみの支えで、様々な困難を乗り越えながら、なんとか光が差してきた。やがて、ふたりは三人の子に恵まれる。あるときから、おふみはなぜか長男の栄太郎ばかりを可愛がるようになる。そして、一家にやがて暗い影が・・・。親子二代にわたって人情の機微を描ききった、第126回直木賞受賞の傑作時代小説。

第126回(2001年下半期) – 唯川恵『肩ごしの恋人』

等身大の女性を描く、第126回直木賞受賞作。
女であることを最大の武器に生きる「るり子」と、恋にのめりこむことが怖い「萌」。対照的なふたりの生き方を通して模索する女の幸せ探し、新しい家族のあり方を描く。

第127回(2002年上半期) – 乙川優三郎『生きる』

亡き藩主への忠誠を示す「追腹」を禁じられ、生き続けざるを得ない初老の武士・又右衛門。周囲の冷たい視線、嫁いだ娘からの義絶、そして息子の決意の行動ーー。惑乱と懊悩の果て、失意の底から立ち上がる人間の強さを格調高く描いて感動を呼んだ「生きる」
生涯でもっとも幸せだった親子で川岸で過ごした記憶。どんな境遇にあっても人としての誇りを忘れなかった、深川の女の遺志を受け継いだ童女の言葉にかつての無頼青年・織之助が感じた衝撃。涙を禁じえない「安穏河原」
隠居暮らしの喜蔵が、若い頃出世のために捨てた女が果たして幸せでいるか案じ、再会する「早梅記」。」
人が「生きる」ことの意味を問いかける珠玉の中篇集。
第127回直木賞受賞作。

第128回(2002年下半期) – 該当作品なし

第129回(2003年上半期) – 石田衣良『4TEEN フォーティーン』

東京湾に浮かぶ月島。ぼくらは今日も自転車で、風よりも早くこの街を駆け抜ける。ナオト、ダイ、ジュン、テツロー、中学2年の同級生4人組。それぞれ悩みはあるけれど、一緒ならどこまでも行ける、もしかしたら空だって飛べるかもしれない――。友情、恋、性、暴力、病気、死。出会ったすべてを精一杯に受けとめて成長してゆく14歳の少年達を描いた爽快青春ストーリー。直木賞受賞作。

第129回(2003年上半期) – 村山由佳『星々の舟』

家族だからさびしい。他人だからせつない──禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、居場所を探す団塊世代の長兄と、いじめの過去から脱却できないその娘。厳格な父は戦争の傷痕を抱いて──平凡な家庭像を保ちながらも、突然訪れる残酷な破綻。性別、世代、価値観のちがう人間同士が、夜空の星々のようにそれぞれ瞬き、輝きながら「家」というひとつの舟に乗り、時の海を渡っていく。愛とは、家族とはなにか。03年直木賞受賞の、心ふるえる感動の物語。

第130回(2003年下半期) – 江國香織『号泣する準備はできていた』

私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから――。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる……。そう囁いてくれる直木賞受賞短篇集。

第130回(2003年下半期) – 京極夏彦『後巷説百物語』

文明開化の音がする明治十年。一等巡査の矢作らは、ある伝説の真偽を確かめるべく隠居老人・一白翁を訪ねた。翁は静かに、今は亡き者どもの話を語り始める。第130回直木賞受賞作。妖怪時代小説の金字塔!

第131回(2004年上半期) – 奥田英朗『空中ブランコ』

跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り。刃物はおろか机の角まで怖い尖端恐怖症のやくざ。ダンディーで権力街道まっしぐら、の義父のカツラを剥がしたくてたまらない医者。伊良部総合病院地下の神経科には、今日もおかしな患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が……この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者を癒す名医なのか!? 直木賞受賞。『イン・ザ・プール』につづく絶好調のシリーズ第2弾!

第131回(2004年上半期) – 熊谷達也『邂逅の森』

山の民「マタギ」に生まれた青年・松橋富治は、身分違いの恋が災いして秋田の山村を追われ、その波乱の人生がはじまる。何といっても圧倒されるのは、山のヌシ・巨大熊とマタギの壮絶な対決。そして抑えつけられた男女の交情の色濃さ。当時の狩猟文化はもちろんのこと、夜這い、遊郭、炭鉱、男色、不倫など、近代化しつつある大正年間の「裏日本史」としても楽しめる冒険時代小説です。長篇小説ならではの面白さに溢れた、第131回直木賞受賞作!

第132回(2004年下半期) – 角田光代『対岸の彼女』

結婚する女、しない女。子供を持つ女、持たない女。それだけのことで、どうして女どうし、わかりあえなくなるんだろう。ベンチャー企業の女社長・葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めた専業主婦の小夜子。二人の出会いと友情は、些細なことから亀裂を生じていくが……。多様化した現代を生きる女性の姿を描く感動の傑作長篇。第132回直木賞受賞作。 夏川結衣、財前直見が主演、堺雅人、根岸季衣、木村多江、香川照之、国分佐智子、多部未華子の豪華スタッフが共演したWOWOWのドラマは、平成18年度芸術祭テレビ部門(ドラマの部)優秀賞を受賞した。

第133回(2005年上半期) – 朱川湊人『花まんま』

まだ幼い妹がある日突然、母のお腹にいた時のことを話し始める。それ以降、保育園をぬけだし、電車でどこかへ行こうとしたり、習ったことの無い漢字を書いたり。そして、自分は誰かの生まれ変わりだと言い出した…(表題作)。昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公たちの思い出が語られる。ちょっと怖くて不思議なことや、様々な喜びやほろ苦さを含む物語に、深い感動と懐かしさがせまる傑作短篇集。第133回直木賞受賞作。

第134回(2005年下半期) – 東野圭吾『容疑者Xの献身』

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。

第135回(2006年上半期) – 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』

「ここも一応、東京なんだがな」と言われてしまう“まほろ市”は、東京のはずれの大きな町だ。まほろ駅前で、ひとり便利屋を営む多田啓介のもとに、高校の同級生・行天春彦が転がりこんだ。高校時代、教室でただ1回しか口を開かなかった、ひょろ長い変人だ。ペットあずかりに子どもの塾の送迎、納屋の整理…ありふれた依頼なのに、行天が来てからは、やたらきな臭い状況に追い込まれるハメに。さて、本日のご依頼は? 多田・行天の魅力が全開の、第135回直木賞受賞作。

第135回(2006年上半期) – 森絵都『風に舞いあがるビニールシート』

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。
自分だけの価値観を守って、お金よりも大事な何かのために懸命に努力し、近づこうと頑張って生きる人たちを描いた6編を収録。

第136回(2006年下半期) – 該当作品なし

第137回(2007年上半期) – 松井今朝子『吉原手引草』

吉原一を謳われた花魁葛城が、忽然と姿を消した。一体何が起こったのか? 吉原を鮮やかに描き出し、直木賞を受賞した時代ミステリーの傑作。

第138回(2007年下半期) – 桜庭一樹『私の男』

落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった10歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から2人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く。

第139回(2008年上半期) – 井上荒野『切羽へ』

かつて炭鉱で栄えた離島で、小学校の養護教諭であるセイは、画家の夫と暮らしている。奔放な同僚の女教師、島の主のような老婆、無邪気な子供たち。平穏で満ち足りた日々。ある日新任教師として赴任してきた石和の存在が、セイの心を揺さぶる。彼に惹かれていく──夫を愛しているのに。もうその先がない「切羽」へ向かって。直木賞を受賞した繊細で官能的な大人のための恋愛長編。

第140回(2008年下半期) – 天童荒太『悼む人』

不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する坂築静人。静人の行為に疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者・蒔野。末期がんに冒された静人の母・巡子。そして、自らが手にかけた夫の亡霊に取りつかれた女・倖世。静人と彼を巡る人々が織りなす生と死、愛と僧しみ、罪と許しのドラマ。第140回直木賞受賞作。
“「この方は生前、誰を愛し、誰に愛されたでしょうか?どんなことで感謝されたことがあったでしょうか?」ーー事件や事故で命を落とした人々のためを「悼む」放浪の旅を続ける静人。 彼の問いかけはそのまわりの人々を変えていく。 家族との確執、死別の葛藤、自らを縛り付ける””亡霊””との対決、思いがけぬ愛。 そして死の枕辺で、新たな命が生まれ……。 静かな感動が心に満ちるラスト! ” 映画化、舞台化された話題作。

第140回(2008年下半期) – 山本兼一『利休にたずねよ』

女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭に昇り詰めていく。
刀の抜き身のごとき鋭さを持つ利休は、秀吉の参謀としても、その力を如何なく発揮し、秀吉の天下取りを後押し。しかしその鋭さゆえに秀吉に疎まれ、理不尽な罪状を突きつけられて切腹を命ぜられる。
利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出したものとは何だったのか。また、利休の「茶の道」を異界へと導いた、若き日の恋とは…。
「侘び茶」を完成させ、「茶聖」と崇められている千利休。その伝説のベールを、思いがけない手法で剥がしていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。

第141回(2009年上半期) – 北村薫『鷺と雪』

帝都に忍び寄る不穏な足音。ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガー…。良家の令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、明治三十年頃に発生した、松平斉(ひとし)男爵の失踪事件を題材にとった「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録。『街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)』『玻璃の天』に続く、花村英子とそのおかかえ運転手・ベッキーさんが主人公のミステリー・シリーズ第三弾。本書所収の3短編は、それぞれ昭和9年から11年にわたる3年の物語。6度目の候補で、第141回直木賞受賞作。

第142回(2009年下半期) – 佐々木譲『廃墟に乞う』

北海道警察捜査一課仙道孝司。現在、休職中
警察小説の持つ魅力に満ちた、直木賞受賞作!
道警の敏腕刑事だった仙道孝司は、「ある事件」をきっかけに療養中の身。だが回復途上の仙道に、次々とやっかいな相談事が舞い込み……。
警察手帳も持たず、拳銃も持てない仙道がどのような捜査をするのか?

第142回(2009年下半期) – 白石一文『ほかならぬ人へ』

「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」――愛するべき真の相手はどこにいるのだろう?「恋愛の本質」に果敢に挑み、描き上げた“もっとも純粋な”恋愛小説。第142回直木賞受賞作!

第143回(2010年上半期) – 中島京子『小さいおうち』

昭和6年、若く美しい時子奥様との出会いが長年の奉公のなかでも特に忘れがたい日々の始まりだった。女中という職業に誇りをもち、思い出をノートに綴る老女、タキ。モダンな風物や戦争に向かう世相をよそに続く穏やかな家庭生活、そこに秘められた奥様の切ない恋。そして物語は意外な形で現代へと継がれ……。最終章で浮かび上がるタキの秘密の想いに胸を熱くせずにおれない、上質の恋愛小説。第143回直木賞受賞作。山田洋次監督で映画化。

第144回(2010年下半期) – 木内昇『漂砂のうたう』

【第144回直木賞受賞作】御一新から10年。武士という身分を失い、根津遊郭の美仙楼で客引きとなった定九郎。自分の行く先が見えず、空虚な中、日々をやり過ごす。苦界に身をおきながら、凛とした佇まいを崩さない人気花魁、小野菊。美仙楼を命がけで守る切れ者の龍造。噺家の弟子という、神出鬼没の謎の男ポン太。変わりゆく時代に翻弄されながらそれぞれの「自由」を追い求める男と女の人間模様。

第144回(2010年下半期) – 道尾秀介『月と蟹』

注目度ナンバー1の著者による少年小説の傑作! 「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」──家にも学校にも居場所が見つけられない小学生の慎一と春也は、ヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを考え出す。100円欲しい、いじめっ子をこらしめるなどの他愛ない儀式は、いつしかより切実な願いへと変わり、子供たちのやり場のない「祈り」が周囲の大人に、そして彼ら自身に暗い刃を向ける……。鎌倉の風や潮のにおいまで感じさせる瑞々しい筆致で描かれ、少年たちのひと夏が切なく胸に迫る長篇小説。 第144回直木賞受賞。

第145回(2011年上半期) – 池井戸潤『下町ロケット』

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。
特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。
男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!
第145回直木賞受賞作。

第146回(2011年下半期) – 葉室麟『蜩ノ記』

命を区切られたとき、人は何を思い、いかに生きるのか―。幽閉中の武士・戸田秋谷の気高く凄絶な覚悟と矜持を、九州豊後の穏やかな山間の風景の中に謳い上げる感涙の時代小説!平成23年度下半期・第146回直木賞受賞作!2014年、待望の映画化!

第147回(2012年上半期) – 辻村深月『鍵のない夢を見る』

望むことは、罪ですか? 誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返す友達のお母さん、結婚をせっつく田舎体質にうんざりしている女の周囲で続くボヤ、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行──。普通の町に生きるありふれた人々に、ふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる五篇。現代の地方の閉塞感を背景に、五人の女がささやかな夢を叶える鍵を求めてもがく様を、時に突き放し、時にそっと寄り添い描き出す。著者の巧みな筆が光る傑作。第147回直木賞受賞作!

第148回(2012年下半期) – 朝井リョウ『何者』

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

第148回(2012年下半期) – 安部龍太郎『等伯』

能登七尾の畠山家に仕える武士の家に生まれた信春は、10歳で長谷川家の養子になる。養父は絵師でもあり、信春も若いころから絵仏師として名声を得ていた。だが信春は地方の絵仏師で埋もれるつもりはなく、京に出て天下一の絵師になるという野望を持っていた。そんな折、畠山家の内紛に巻き込まれて養父母を失い、妻子を連れて生まれ故郷を出る。そうして各地を転々とし、信長との確執もありながらついには洛中で絵師として身を立てる。だがその後も、狩野永徳との対立、心の師と仰ぐ千利休の自刃、息子の死など、次々と悲劇が信春を襲う。そうして彼がたどりついたのが、六曲一双の「松林図屏風」だった――。直木賞受賞、長谷川等伯の誕生を骨太とに描いた傑作長編。

第149回(2013年上半期) – 桜木紫乃『ホテルローヤル』

【第149回直木賞受賞作】北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は“非日常”を求めてその扉を開く――。恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。ささやかな昂揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。

第150回(2013年下半期) – 朝井まかて『恋歌』

樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗党の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く直木賞受賞作。

第150回(2013年下半期) – 姫野カオルコ『昭和の犬』

昭和三十三年滋賀県に生まれた柏木イク。気難しい父親と、娘が犬に咬まれたのを笑う母親と暮らしたのは、水道も便所もない家。理不尽な毎日だったけど、傍らには時に猫が、いつも犬が、いてくれた。平凡なイクの歳月を通し見える、高度経済成長期の日本。その翳り。犬を撫でるように、猫の足音のように、濃やかで尊い日々の幸せを描く、直木賞受賞作。

第151回(2014年上半期) – 黒川博行『破門』

「わしのケジメは金や。あの爺には金で始末をつけさせる」
映画製作への出資金を持ち逃げされた、ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮。失踪したプロデューサーを追い、桑原は邪魔なゴロツキを病院送りにするが、なんと相手は本家筋の構成員だった。禁忌を犯した桑原は、組同士の込みあいとなった修羅場で、生き残りを賭けた大勝負に出るが――。
第151回直木賞受賞作にして、エンターテインメント小説の最高峰「疫病神」シリーズ!

第152回(2014年下半期) – 西加奈子『サラバ!』

僕はこの世界に左足から登場した――。
圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。
そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。

第153回(2015年上半期) – 東山彰良『流』

一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾 に渡った不死身の祖父は殺された。誰に、どんな理由で? 無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。選考委員満場一致、「二十年に一度の傑作」(選考委員の北方謙三氏)に言わしめた直木賞受賞作。

第154回(2015年下半期) – 青山文平『つまをめとらば』

女という圧倒的リアル! 直木賞受賞作
去った女、逝った妻……瞼に浮かぶ、獰猛なまでに美しい女たちの面影はいまなお男を惑わせる。
江戸の町に乱れ咲く、男と女の性と業。

女が映し出す男の無様、そして、真価――。
太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。
身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか――。
時代小説の新旗手が贈る傑作武家小説集。
男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。
選考会時に圧倒的支持で直木賞受賞。遂に文庫化!

第155回(2016年上半期) – 荻原浩『海の見える理髪店』

店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕はある想いを胸に、予約をいれて海辺の店を訪れるが……「海の見える理髪店」。独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。弟に促され実家に戻った私が見た母は……「いつか来た道」。人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く全6編。父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族小説集。直木賞受賞作。

第156回(2016年下半期) – 恩田陸『蜜蜂と遠雷』

近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。 その火蓋が切られた。

第157回(2017年上半期) – 佐藤正午『月の満ち欠け』

あたしは,月のように死んで,生まれ変わる――この七歳の娘が,いまは亡き我が子? いまは亡き妻? いまは亡き恋人? そうでないなら,はたしてこの子は何者なのか? 三人の男と一人の女の,三十余年におよぶ人生,その過ぎし日々が交錯し,幾重にも織り込まれてゆく,この数奇なる愛の軌跡.プロフェッショナルの仕事であると選考委員たちを唸らせた第一五七回直木賞受賞作,待望の文庫化.

第158回(2017年下半期) – 門井慶喜『銀河鉄道の父』

政次郎の長男・賢治は、適当な理由をつけては金の無心をするような困った息子。
政次郎は厳格な父親であろうと努めるも、賢治のためなら、とつい甘やかしてしまう。
やがて妹の病気を機に、賢治は筆を執るも――。

天才・宮沢賢治の生涯を父の視線を通して活写する、究極の親子愛を描いた傑作。<第一五八回直木賞受賞作>

第159回(2018年上半期) – 島本理生『ファーストラヴ』

夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。

第160回(2018年下半期) – 真藤順丈『宝島』

◆祝!3冠達成★第9回山田風太郎賞&160回直木賞受賞!&第5回沖縄書店大賞受賞!◆希望を祈るな。立ち上がり、掴み取れ。愛は囁くな。大声で叫び、歌い上げろ。信じよう。仲間との絆を、美しい海を、熱を、人間の力を。【あらすじ】英雄を失った島に新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染みーーグスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり、同じ夢に向かった。

第161回(2019年上半期) – 大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』

筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──
虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた。

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。
大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。
末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。
近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。
弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。

著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ
人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!

第162回(2019年下半期) – 川越宗一『熱源』

降りかかる理不尽は「文明」を名乗っていた。
樺太アイヌの闘いと冒険を描く前代未聞の傑作!

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。
開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。

一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。
ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。

日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

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