【書評】1941年。パリの尋ね人(パトリック・モディアノ)のあらすじ(ネタバレなし)・感想

歴史の忘却に抗し、名もなきユダヤ人少女のかすかな足跡を追い求め、フランスを感動の渦に巻き込んだ名作。

1941年。パリの尋ね人の作品情報

タイトル
1941年。パリの尋ね人
著者
パトリック・モディアノ
形式
小説
ジャンル
歴史
執筆国
フランス
版元
不明
初出
不明
刊行情報
作品社
翻訳者
白井成雄
受賞歴
2014年ノーベル文学賞

1941年。パリの尋ね人のあらすじ(ネタバレなし)

「尋ね人。名前ドラ・ブリュデール、女子、十五歳、目の色マロングレー、うりざね顔…」。1941年12月31日、占領下のパリの新聞に載った「尋ね人広告」。これを偶然発見した時から、作家モディアノの10年にわたる少女ドラの行方を探す旅がはじまった…。歴史の忘却に抗し、名もなきユダヤ人少女のかすかな足跡を追い求め、フランスを感動の渦に巻き込んだ名作。

1941年。パリの尋ね人の目次

  • 日本の読者の皆さんに
  • 1941年。パリの尋ね人
  • 訳者あとがき 白井成雄
  • 年表 ドラ・ブリュデールの運命とその時代
  • パリ市街図

作者

パトリック・モディアノ Patrick Modiano (1945年7月30日 – )

作家。フランス、ブローニュ=ビヤンクール生まれ。アカデミー・フランセーズ賞、ゴンクール賞などの多くの権威ある文学賞を受賞している現代フランスを代表する作家である。2014年10月には「最も捉え難い人々の運命を召喚し、占領下の生活世界を明らかにした記憶の芸術」であるという理由により、ノーベル文学賞を受賞した。

1941年。パリの尋ね人の刊行情報

白井成雄訳『1941年。パリの尋ね人』作品社、1998年

1941年。パリの尋ね人の登場人物

ドラ・ブリュデール
本作の主人公的な少女。15歳。ユダヤ人。本作はモディアノが当時の新聞の尋ね人の広告を見たことから書き始められた。

1941年。パリの尋ね人の感想・解説・評価

40年前の少女の足跡を追った”記憶の芸術”

小説かと思って読み始めたが、「ノンフィクション小説」だった。本書はモディアノが見かけた新聞記事の「尋ね人」の女の子の足跡を追ったノンフィクションを中心としている。大げさではあるが歴史書と言っても間違いではないだろう。

ちなみに原題は「Dora Bruder」と少女の名前そのままである。モディアノは偶然見かけたこの尋ね人広告を10年かけて調査し、その結果を本書にまとめた。しかし1941年12月31日付の新聞の尋ね人を1988年から探し始めるのは容易なことではなかったようだ。

「私がすくい上げることのでき、本書に書きとめた彼女のわずかな足跡は、ドラ・ブリュデールが私にとって永遠に不在であることを示しています。アウシュビッツやヒロシマのあった時代に、無名の犠牲者であり、行方がわからなくなった一人の少女を探し求めた結果は、これ以外の形ではありえなかったのです。」

淡々とした文章でモディアノが調べ上げた少女とその両親の人生と、戦時下のパリでの生活が描かれていく。一読して、これ以上は不可能だろうという調査量に驚いた。モディアノ本人は調べきれなかった点を自身の想像で補ったことについて、申し訳なさそうですらあるが、その想像も現地調査に基づいていて説得力がある。

暗い時代の、しかもナチス・ドイツ占領下であるパリを書いた本ではあるが、丁寧に制御された文章からは必要以上の悲壮感やメッセージは伝わって来ないようだ、と読み進めながら思っていた。しかし、次第に文章の中にモディアノ流の哀しさと激情があるのではないかと考えを改めた。そして、モディアノの父や当時の人々に触れながら、「尋ね人」探しは「結末」へと向かう。

第二次世界大戦、ナチス・ドイツ、占領下のパリ、行方不明となったユダヤ人の少女と両親。これだけのキーワードからはあまりに悲惨な「結末」しか想像できない。僕は戦争や虐殺の本を読んで散々傷付いてきたし、このところは関連書籍から目を背けつつある。それでもこの本には読む人を離さない不思議な魅力がある。それはモディアノ自身の力でもあるが、モディアノが追いかけた当時の人々の力でもあるだろう。

のちのノーベル文学賞受賞理由「最も捉え難い人々の運命を召喚し、占領下の生活世界を明らかにした記憶の芸術に対して」とはまさに本書のことである。文句なく人に薦めることのできる素晴らしい本だ。モディアノが心を打たれたという本書への批評からも、その素晴らしさを窺い知ることができるだろう。

「もはや名前もわからなくなった人々を死者の世界に探しに行くこと、文学とはこれにつきるものかもしれない。」

合わせて読みたい本

暗いブティック通り

モディアノの作品を読んでいきたいのならおすすめは『暗いブティック通り』です。

とある理由から記憶を失った主人公が、自分はいったい何者なのか?どうして記憶を失ったのかを知るためにさまよいます。後年の作家に大きな影響を与え、数多くの似たような設定の話が書かれることになりました。それでもモディアノ独特のエネルギーのこもった文章は他の追随を許さない出来栄えです。

1941年。パリの尋ね人の評判・口コミ・レビュー

この記事を書いた人
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平成生まれ。ライター、ブロガー、文筆家志望、Twitterで書評を書いている人。読んだ本が1万冊を超えたことを機に2017年からブログ再開、2020年は戦後思想史を勉強しつつ小説を書いています。好きな作家はカフカ、ガルシア=マルケス、村上春樹、大江健三郎、庄司薫、佐藤泰志など。そのほか、ラテンアメリカ文学、英ロック、欅坂46、囲碁、宮下草薙も好きです。
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