作品情報

- タイトル
- ヨコハマ買い出し紀行
- 著者
- 芦奈野ひとし
- 形式
- 漫画
- ジャンル
- 日常
SF - 執筆国
- 日本
- 版元
- 講談社
- 初出
- 月刊アフタヌーン、1994年~2006年
- 刊行情報
- 下記
- 受賞歴
- 第38回星雲賞(コミック部門)
第24回講談社漫画賞一般部門候補
あらすじ・概要(ネタバレなし)
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。人型ロボット・アルファは、喫茶店『カフェ・アルファ』を営みながら、オーナーを待ち続ける――。アフタヌーン本誌で12年もの間、読者の支持を集め続けた異色のてろてろSFコミック。
目次
全140話
作者
芦奈野 ひとし あしなの・ひとし(1963年4月25日 – )
漫画家。神奈川県横須賀市出身。1994年、『ヨコハマ買い出し紀行』がアフタヌーン四季賞を受賞。同作が連載化してデビューを果たすと、2007年には第38回星雲賞コミック部門を受賞した。そのほかの主な作品に、『カブのイサキ』、『コトノバドライブ』などがある。
もっと読む【おすすめ】芦奈野ひとしの全作品を一覧であらすじを紹介します
刊行情報
- 『ヨコハマ買い出し紀行』講談社〈アフタヌーンKC〉、全14巻
- 『新装版 ヨコハマ買い出し紀行』講談社〈アフタヌーンKC〉、全10巻
アニメ版関連動画
OVA『ヨコハマ買い出し紀行』
- 『ヨコハマ買い出し紀行 vol.1』(1998年3月・VHSおよびLD)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 vol.2』(1998年12月・VHSおよびLD)
2000年7月にはDVDが発売されています。
OVA『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-』
- 『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-#1』(2002年12月・VHSおよびDVD)
- 『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-#2』(2003年3月・VHSおよびDVD)
全編無料視聴できる配信一覧
登場人物
初瀬野アルファ
本作の主人公。若い女性の姿をしたロボット。神奈川県にある「西の岬」でオーナーの帰りを待ちつつ、喫茶店「カフェ・アルファ」を営んでいる。コーヒー豆が尽きてくると、スクーターでヨコハマの街に買い出しに行く。宝物はオーナーからもらった鉄砲とカメラ。
鷹津ココネ
若い女性の姿をしたロボット。ムサシノ運送で働いており、カメラの配達を通じてアルファと出会う。アルファと出会うことで生き方に影響を受けており、何度も喫茶店を訪れては泊っている。ロボットである自分のルーツを探し求めて情報収集をしている。
おじさん
カフェ・アルファの近所でガソリンスタンドを営む老人。カフェ・アルファの常連客。アルファのよき話し相手である。
先生
初老の女性医師。名字は子海石。雷に打たれたアルファを治療した。おじさんの学生時代の先輩で、かつてはロボット開発にも携わっていた模様。
タカヒロ
おじさんと一緒に住む少年。カフェ・アルファの常連。アルファに、淡い恋心を抱いている。
真月(マッキ)
タカヒロの幼馴染の少女。周囲の人からはマッキと呼ばれている。タカヒロに好意を抱いている。
あらすじ(ネタバレあり)
第1巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。人型ロボット・アルファは、喫茶店『カフェ・アルファ』を営みながら、オーナーを待ち続ける――。アフタヌーン本誌で12年もの間、読者の支持を集め続けた異色のてろてろSFコミック。
舞台は近未来の日本。近未来ですが、なんらかの原因で海水面が日々上昇しており、街は海に飲み込まれつつあります。
主人公のアルファはロボット。喫茶店を一人で切り盛りしながらオーナーの帰りを待っています。
気候変動により、インフラを中心に文明社会は大打撃を受けているように見えます。道路のアスファルトは荒れ、建物のコンクリートの間からは雑草が生えています。
それでも人々の間に悲観的な雰囲気はありません。ほのぼの(てろてろ)とした日常が描かれます。
日常×SFで、幻想的かつ寂しい世界観が楽しめます。大きな事件が起こるわけではありません。月琴に舞もできる天真爛漫な美人と住人の微笑ましい交流がほっこりさせられます。
第2巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。ある日『カフェ・アルファ』へやってきた宅配便。それは、アルファのオーナー・初瀬野(はつせの)からの物だという。それを届けに来た“ココネ”もまた、アルファと同じ、『アルファ型』の女性ロボットだった。
隣の「ムサシノ」から電車、車を乗り継いで宅配便が来ました。ココネという名前のロボットが届けてくれたのは、オーナーからのプレゼントであるカメラ。
後輩ロボットとの交流を深めつつ、アルファはカメラに色々な風景を収めるため、外出するようになります。
その後には近所のガソリンスタンドのおじさんと1巻でアルファの治療をした先生の関係が明かされます。
2人の過去の描写と共に、文明社会が自然に飲み込まれていく様子を見ると寂しい。2人が見て回ったという「時代をよく表し、別に注目されず、2度と見られないもの」にノスタルジーを感じますね…
そう思うとオーナーがアルファに贈ったプレゼントがカメラだというのも納得。「2度と見られないもの」を見るための道具ですから。
第3巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。約束通り、プライベートでアルファのもとを訪れたココネ。再会し、意気投合した2人は夜を語り明かす。アルファとの交流で、ロボットであるがゆえに「人間っぽく」生きようと気負っていたココネの価値観に、変化が訪れる……。
3巻ではアルファとココネの交流が深まりつつ、世界観が徐々に明かされていきます。
インフラが荒廃しつつある東京の街並みや、空飛ぶ魚、不老不死の生物「ミサゴ」、飛び続ける飛行機「ターポン」に住む人々、子どもの形をする水神…
海に飲み込まれた街のインフラが生き続けている寂しさは、ダムの底に沈んだ町を見るよう。ベネチアや南太平洋の島国だと実際に海水面が上昇して建物が水没してたりするんですよね。日本でも沖縄とか、琵琶湖の周辺とか。
かつて人がいた場所に、今は人が住むことができない。その事実ってなんでこんなに寂しいんでしょうか。
第4巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。上空を延々飛び続ける巨大な飛行機“ターポン”。その中で「アルファー室長」と呼ばれるひとりの女性。はるか空の上から、もう降りることのない地上世界を見つめている彼女もまた、アルファやココネと同じく、“ロボットの人”なのであった。彼女たちと過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
4巻はまったり感がいっそう増した印象。
3巻で初登場した飛行機・ターポン。その中では、アルファー室長というアルファさんそっくりの女性が”下の世界”の様子を伺っていました。
なんでもアルファさんはだいぶ昔に造られた試作機のうちの一体だったそう。実は見た目よりもかなり高齢なのかな?とも思いますが、その時間の中で徐々に人間らしさを獲得しつつあるようです。それは期待されていた性能をはるかに超えているとのこと。
自然変動により社会が変容しつつあっても、日々の生活を楽しむことは大切なんだなと感じられる巻でした。
第5巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。当面のコーヒー豆を買いに、アルファさんは横浜へ買い出しに。時間に余裕を取った今回の買い出し。買い物を済ませ、色々行きたい所はあるのだけれど……。ふと思い立ったアルファさんは、一路「彼女」の家へ向かうのだった――。
タイトル回収…なのかはわかりませんけど、コーヒー豆を買いにアルファは横浜へと向かいます。まさに「ヨコハマ買い出し紀行」!
アルファの喫茶店のある周辺は、人家がまばらに立っているくらいでしたが、横浜はかなり店や人が集まっており都市としての役割を果たしているのでした。
そのほかカメラの持つ記憶装置の役割が「時間旅行記」として強調されたり。文学が記憶の芸術だと言われたりもしますけど、漫画もそうなのかもしれません。
第6巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。アルファとの出会いから、ロボットである自分たちのルーツに興味を持ったココネがふと立ち寄った児童館で見つけたレコード。それに記されていたものは……? 黄昏の時を生きる人々と過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
6巻は人の繋がりや交流が描かれた印象です。
これまですれ違いが続いていたアルファとタカヒロ&マッキ。タカヒロのことが好きなあまり、アルファのことをなんとなく避けていたマッキも彼女との交流を持つようになりました。
これまではココネからアルファへと一方通行的に送られていた手紙も、文通形式に。徐々に過去のエピソードも語られますが、世界観が明かされるのはまだまだ先のようです。
第7巻のストーリーを紹介!
お祭りのようだった世の中がゆっくりと落ち着き、のちに“夕凪(ゆうなぎ)の時代”と呼ばれる近未来の日本。台風“メイホワ”が到来。おじさんのスタンドに非難したアルファだったが、ラジオから流れる台風情報と風音を聞いているうちに、お店の事が心配になってきて……。黄昏の時を生きる人々と過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
ここ数巻ほどはまったりとした時間(てろてろの時間)を過ごしていたアルファさん。第7巻では、飛行機・ターポンのアルファと先生の関係が示唆されます。
そんな中喫茶店には台風が襲来。大きなダメージを受けた喫茶店を直すためにアルファさんはフラフラと称して出稼ぎ&見聞を広める旅に出ることになりました。
1巻と比べてタカヒロの身長がだいぶ伸びていたり、マッキが大人っぽくなっていたりと人間サイドの成長が描かれる一方、旅に出かけるアルファさんも広い世界を見て成長しているように感じられます。
1巻であった鉄砲のエピソードが、7巻になって復活しているところも気になりますね。アルファさんの宝物である鉄砲とカメラは両方ともオーナーからのプレゼント。そのオーナーは姿を現さないままですが、なにをしているんでしょうか。
第8巻のストーリーを紹介!
台風でほぼ全壊してしまった『カフェ・アルファ』を建て直すため、出稼ぎの旅をはじめたアルファ。彼女はその旅の道で様々な人や景色に触れる。 そして、生まれて初めて男の“ロボットの人”に出会うアルファ――。黄昏の時を生きる人々と過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
アルファさんが出稼ぎに出掛けたため、これまでの舞台やキャラクターからは離れた一冊になっています。それだけにどこか寂しさも。
海の近くで喫茶店をしていたためか、アルファさんが出掛けたのは「山」。道路が荒れていたりとインフラは乱れていますが、アルファさんが出会う人たちはみんな穏やかで親切で癒されますね。
第9巻のストーリーを紹介!
一年間の出稼ぎの旅から帰ってきたアルファを出迎えたのは、いつの間にかアルファの身長を越す程成長していたタカヒロだった。アルファの初めて体験する一年。それは、アルファが過去を通り過ぎた証――。黄昏の時を生きる人々と過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
出稼ぎの旅から戻ってきたアルファさん。店は壊れたままですが、なんとか形を整え営業を再開します。
アルファさんはロボットなわけで、時間の流れが人間とは違うことが作中では何度も示唆されてきました。タカヒロに惚れているマッキに「(タカヒロとマッキは)同じ時代の人」と語ったりですね。オーナーがアルファさんにカメラを贈ったときにもそのような話がありました。
でも、9巻で旅から帰ってきたアルファさんは「うまれてはじめてひとつ齢をとった気がしている」と感じます。誰かと接するときの底抜けの明るさと、一人でいるときの感傷的な雰囲気が印象的で、アルファさんの人間らしさを強く感じたシーンでした。
第10巻のストーリーを紹介!
出稼ぎの旅から帰ってきたアルファの元に届いた一通の手紙。それは旅の途中で出会った“男のロボットの人”、ナイからのものだった。黄昏(たそがれ)の時を生きる人々と過ごす、てろてろの時間をお楽しみあれ。
8巻の出稼ぎ旅や感傷的な雰囲気の9巻から一転、10巻は以前のようなまったりとした巻になりました。
ちょっとした出会いや再会が描かれたり、初めての雪に大騒ぎするかわいいアルファさんを見ることができます。
それにしてもなんでこの世界の植物はちょっと変わってるんでしょうか。
第11巻のストーリーを紹介!
タカヒロにドライブに誘われたアルファ。タカヒロは、働くために地元を離れる決意をアルファに告げる。流れ行く時間は、穏やかな終末。ゆっくりと。でも、確かに。――「なんてゆうかさ……待つことだけは得意ワザだから、ねえちゃん、本気で待っちゃうよ」
丸子に言われたことを気にして、喫茶店について考え始めたアルファ。自力で直した建物のことだけではなく、コーヒーに使う水のことを気にし始めます。
作中では時間が経つのもあっという間。タカヒロは仕事のための技能を身につけるため、西の国へと向かうそう。出会いと別れが描かれ、寂しい気分になる巻です。
僕らは平成から令和の時代を生きているわけですが、ヨコハマ買い出し紀行の世界の人たちはどうやって時代を区切っているんでしょうか。
第12巻のストーリーを紹介!
ある昼下がり、アルファは夢を見た。それは、彼女のオーナー・初瀬野が旅に出る前の、遠く懐かしい記憶――。緩やかに、しかし確実に周りの景色も変化していく中、タカヒロやマッキの成長する姿を間近で見てきたアルファは、永遠の時を生きるロボットであるがゆえに、彼らと同じ時間をずっと過ごせないことを実感する……。「早いなあ……早すぎるよ」
アルファさんが、自分が「ロボット」であることを意識する瞬間が悲しいですね。
寝ているマッキを見て、その姿が以前のタカヒロと重なってくるという…9巻で「うまれてはじめてひとつ齢をとった気がしている」と感じるほど人間らしいアルファさんでも、歳は取らないのです。
人間は若くありたいとか、歳をとりたくないとか考えますけど、本当にそうなっても、アルファさんのように時間を考え続けることになるんでしょうね。全話を通じてもっとも切ない回でした。
第13巻のストーリーを紹介!
「おそかれ早かれよ、ここいらもっと静かになんべ」――静かに、ゆっくりと、でも確実に変化してゆく自然、土地、街、人……のちに夕凪(ゆうなぎ)の時代と呼ばれる、てろてろの時間。悠久の時を生きるアルファたち“ロボットの人”は、のんびりと訪れてくる時代の黄昏(たそがれ)を彼岸で見つめる。
物語も終わりに近づき、どんどん時間が流れていきます。13巻も冒頭は夏なのに、次の話では長袖になり、後半では厳しい寒さに身を震わせるというように…
ストーリーを意識してか「これからの社会や人たちはどうなるのか」という視点が繰り返し登場します。タカヒロは働きに出て、マッキも「なにかをしたい」と喫茶店を手伝い始め、おじさんは喫茶店の場所もいずれは海に飲まれてしまうことを告げます。
おじさんは喫茶店が海に沈んでしまった場合、ガソリンスタンドを利用して喫茶店を開くことを提案します。ですが、その提案を聞いたアルファさんは泣き出してしまうのです。アルファからすれば、おじさんや先生など自分の周囲の人間が亡くなってしまうことや自分の愛したお店が波にさらわれてしまうことに気が付いたのだと思います。
アルファさんはこれからも長い間生きていくことになるでしょう。その間には人間と大地に訪れる残酷な変化をたくさん見ることになるのだと思うと、ほっこりとされられる物語に残酷なものを感じてしまいます。
第14巻のストーリーを紹介!
12年分の思いが詰まった完結巻。そして過ぎ去る夕凪(ゆうなぎ)、やがて訪れる夜……。のちに夕凪の時代と呼ばれるてろてろの時間。つかの間のひととき、ご案内しましょう。夜が来る前に、まだあったかいコンクリートにすわって――。
最終巻では一気に時間が流れ、冒頭から大人に成長したマッキが登場します。
さらに後半ではその後の時代のことも。10巻辺りから作中の時間の流れが加速しましたが、最終巻に来てその流れがさらに進みました。
作中に示された複数の謎や伏線はそのほとんどすべてが明かされないまま終わりました。でもヨコハマ買い出し紀行の場合はそれでいいのだと思います。
感想・解説・評価
#芦奈野ひとし「#ヨコハマ買い出し紀行」#読了
— 右手@ものかき (@migite1924) 2020年4月3日
おすすめ度:☆☆☆☆☆
海水面が上昇し海に飲み込まれつつある日本を舞台に、喫茶店を営む女性ロボットの日常を描いた作品。https://t.co/JjNDJoy2Q8 pic.twitter.com/DETLVlNEZN
基本的にはほっこりするエピソードが多い中、時の流れの寂しさや、失われつつあって二度と見られないものを描いていたりと緩急の付け方が見事。ロボットである主人公と対比して、子どもたちの成長が描かれていて、同じ場所で生活していても違う時間が流れていることに感傷的な気持ちになりました。
— 右手@ものかき (@migite1924) 2020年4月3日
久しぶりに良い漫画を読んだぞ!という気分。大満足です。
— 右手@ものかき (@migite1924) 2020年4月3日
そのほか詳しい感想はブログにまとめました。https://t.co/9VBO0WIqlF
ゆったりとした時間が流れるほっこり漫画
本作の舞台は近未来の日本。近未来ですが、なんらかの原因で海水面が日々上昇しており、街は海に飲み込まれつつあります。
何らかの異常気象か地殻変動か…そんな中でも人々は悲観的ではなく、朗らかに日々の暮らしを楽しみながら生活しています。
主人公のアルファは見た目は完全に人間ですが、実はロボット。喫茶店を一人で切り盛りしながらオーナーの帰りを待っています。
ジャンルとしては「SF」に分類されると思うんですが、各エピソードは非常にまったりとしたもの。天真爛漫なアルファさんに癒される作品です。
日常生活の忙しさに疲れた人におすすめな漫画ですね。
「時代をよく表し、別に注目されず、2度と見られないもの」
物語の序盤は一人で喫茶店を切り盛りするアルファさんのエピソードが中心で、時折作者独自の世界観が挿入されていました。
しかし、徐々に「時間」や「日々変化していくもの」のエピソードが増加。年を取らないロボットであるアルファさんと比較するように、タカヒロ・マッキといった子どもたちの成長や、海に飲まれつつある街の変化などが描かれるようになります。
アルファさんもそのことに気付き、オーナーからプレゼントされたカメラを手に出歩くようになります。作中にもある通り、カメラとはまさに「時間旅行機」。
アルファさんが撮影するのは、かつて先生とおじさんが見て回ったのと同じ「時代をよく表し、別に注目されず、2度と見られないもの」ばかり。
本作を読み終わると2人が見て回った、時の流れを感じる儚い「時代をよく表し、別に注目されず、2度と見られないもの」とは、まさに作中で描かれたようななんでもない日常のストーリーであることに気が付かされます。とくに終盤は時間の進行が速くなり、子どもたちは大人へと成長しますし、老人たちは自分の命の残り時間を意識した行動をとり始めます。
そんな終盤のストーリーを読んでいると、序盤のエピソードがすでに「時代をよく表し、別に注目されず、2度と見られないもの」になっていることに寂しさを覚えるのです。タカヒロはカフェ・アルファへとコーヒーを飲みに来ませんし、近所の人たちの集まりでアルファさんが踊りを披露することもありません。
現実世界でも流行が変われば、街並みも変わり、時代によってライフスタイルも変化すれば、子どもたちは学校を卒業していきます。そのときのなんとも言えない寂しさを見事に作品化した漫画だと思いました。
合わせて読みたい本
ヨコハマ買い出し紀行 -芦奈野ひとし画集-
画集には作者のインタビューも収録されています。
インタビューでは、作中で明かされなかった設定や謎などについても言及。本編が気に入った方は画集を合わせて読むと理解が深まると思います。
カブのイサキ
同じく芦奈野ひとし先生の作品です。ヨコハマ買い出し紀行のテーマが「海」だとするのなら、こちらは「陸」「空」がテーマ。飛行機がたくさん登場します。
ヨコハマ買い出し紀行が気に入ったのなら続けて読むのにおすすめです。
花と奥たん
『いいひと。』や『最終兵器彼女』の高橋しん先生の作品です。
基本的には、料理をテーマとした日常漫画。…なのですが、東京都の中心部に突如出現した花により東京の都市機能は破壊され、多くの犠牲者が出てしまったという設定になっています。
主人公の奥たんも、そんな「残され妻」の一人。彼女はご飯を作りつつ、夫の帰宅する日を待っています。
この作品のすごいところは日常や料理に加え、のちの東日本大震災の被災地の状況を予言していたような描写の数々です。大切な家族を失い、風評被害に苦しむ被災地の方々にこそ読んでほしいです。
もっと読む【おすすめ】高橋しんの全作品を一覧であらすじを紹介します
評判・口コミ・レビュー
ヨコハマ買い出し紀行、読了。
— テヌキボーズ (@tenukibozu) 2018年9月2日
こちらもまた平和な終末モノってことで良い。
『渚にて』と違って悲壮感はないけれど。
『ヨコハマ買い出し紀行』
— るしえど@リーフガーデン (@luciednishimura) 2019年12月2日
読了。
面白いという表現は少し違う気もしますが、自分の中ではかなり好きな作品です。ディストピア系ですけど、暗い話はほとんどなく、のんびりとした感じで、慌ただしく日々を過ごす現代人には癒しになります?
アルファさんはかわいいなぁ💕
「ヨコハマ買い出し紀行」読了。幸福感と寂寥感のバランスが絶妙で、それを終始保ち続けているのがすごい。他の作品ではとても味わえない。ふるさとのような作品。
— QUANON (@quanon_jp) 2016年6月3日
漫画「ヨコハマ買い出し紀行」読了。うん、これは良いものだ。緩やかに滅びに向かっている世界、穏やかに流れる時間。ぽつ、ぽつ、と強く主張せず時折混じるSF。ぼけーっと読んでちょっと切なくちょっと幸せになれる良い漫画だと思った。
— 楽助 (@Raku2k) 2014年12月1日
『ヨコハマ買い出し紀行』読了。SFとFTの境界的な作品でした。文明崩壊後の世界を舞台にしているが、現代の延長上にある科学技術文明を過ぎ去った過去として肯定的に描いている。この描き方は「仮想されたノスタルジー」であり、この作品をSFとして成立させている要なのだろうなあ。
— mkszk (@m_k_szk) 2013年6月30日