聲の形(大今良時)のあらすじ(ネタバレあり)・感想

聴覚の障害によっていじめを受けるようになった少女・硝子と、彼女のいじめの中心人物となったのが原因で周囲に切り捨てられ孤独になっていく少年・将也の2人の触れ合いを中心に展開し、人間の持つ孤独や絶望、純愛や友情などが描かれる。

作品情報

タイトル
聲の形
著者
大今良時
形式
漫画
ジャンル
青春
執筆国
日本
版元
講談社
初出
週刊少年マガジン、2013年36号・37合併号~2014年51号
刊行情報
講談社コミックス、全7巻
受賞歴
第80回週刊少年マガジン新人漫画賞入選
第19回手塚治虫文化賞新生賞
2016年マンガワ賞 少年部門
2017年富川漫画大賞海外漫画賞
第38回講談社漫画賞少年部門候補
「SUGOI JAPAN Award 2016」マンガ部門「SUGOI 20」候補
2016年アイズナー賞 最優秀アジア作品候補
2014年度「コミックナタリー大賞」第1位
「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位
「2014年コレ読んで漫画ランキング」4位
「マンガ大賞2015」3位
2016年 YALSA(全米図書館協会)ベスト漫画(グラフィックノベル)10選
2016年日経エンタテインメント! 「ヒット番付」東前頭16枚目

あらすじ・概要(ネタバレなし)

お前なんかに出会わなきゃよかった。
もう一度、会いたい。

耳の聞こえる少年・石田将也(いしだしょうや)。
耳の聞こえない転校生・西宮硝子(にしみやしょうこ)。
ふたりは運命的な出会いをし、そして、将也は硝子をいじめた。
やがて、教室の犠牲者は硝子から将也へと移っていった。
幾年の時を経て、将也は、 もう一度、硝子に会わなければいけないと強く思うようになっていた。
週刊少年マガジン掲載時に、空前の大反響を巻き起こした衝撃作。待望の単行本1巻発売!

作者

大今 良時 おおいま・よしとき(1989年3月15日 – )

漫画家。2008年、第80回週刊少年マガジン新人漫画賞に投稿した「聲の形」で入選。同作は当初、増刊『マガジンSPECIAL』2008年12月号に掲載される予定であったが編集部内の異論を理由に延期となり、2009年より『別冊少年マガジン』で冲方丁の同名小説を原作とする「マルドゥック・スクランブル」の連載でデビューした。2013年、入選作品をリメイクした読み切り「聲の形」が『週刊少年マガジン』12号に掲載され、週刊少年マガジン36・37合併号より週刊連載が開始。アニメ化されるなどヒット作となった。

刊行情報

  • 『聲の形』 講談社〈講談社コミックス〉、全7巻

映画版、アニメ版関連動画

『映画 聲の形』2016年9月17日

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登場人物

石田 将也(いしだ しょうや)
本作の主人公。粗暴なガキ大将タイプの少年であり耳の不自由な硝子に、好奇心からいじめを行ってしまう。度を過ぎた行為は学級裁判で大きな非難を浴び、クラスメイトから反対にいじめを受けるようになる。その後硝子の優しさに気が付き、謝罪と感謝を伝えるために、独学で手話を学ぶ。

西宮 硝子(にしみや しょうこ)
本作のもう一人の主人公であり、ヒロイン。先天性聴覚障害を持つ少女。補聴器をつけても会話はほとんど聞き取れず、発生も不完全で会話でのコミュニケーションを苦手としている。小学校は特別支援学校ではなく普通校を選択するも、度重なるいじめを受けていた。性格は温厚で優しいが、コミュニケーションでの失敗の経験からトラブルの際には愛想笑いや謝罪でごまかすことが多い。小学校のいじめから5年後将也たちと再会する。

植野 直花(うえの なおか)
小学校時代のクラスメイトで、黒髪ロングの少女。転校してきた硝子の世話役を任されるが、その負担の大きさの割に担任教師からの理解や支援もなく、次第に不満を募らせ、結果的にいじめに加担することになった。実は密かに将也に好意を寄せ続けているが、いじめ以後は傍観者的な態度を崩せず疎遠になってしまっていた。高校では佐原と同じ「太陽女子学園」に進学し、服飾やデザインを学んでいる。感情的でヒステリックな一面を持ちながらも、同じく将也に想いを寄せる硝子を意識するなど、彼女のことを障害者ではなくライバルとして対等に見ている。

佐原 みよこ(さはら みよこ)
小学校時代のクラスメイト。硝子の世話役を任された植野の負担を軽減するため、手話を学ぼうとするが、そのことで逆にクラスメイトから「点数稼ぎ」と言われるようになり、不登校になってしまう。将也と同じ中学校に進学したものの、保健室登校だったため、将也との交流はほとんどなかったが、手話の本を読み続けていた。高校は偶然植野と同じクラスとなり、服飾やデザインを学んでいる。

川井 みき(かわい みき)
小学校時代のクラスメイト。真面目な優等生だが、周囲に八方美人的な態度を取り、自分が追い詰められると相手を悪者扱いする利己的なところがある。自分の容姿が優れているという認識があり、高校からは髪形を変え、眼鏡からコンタクトレンズになった。

永束 友宏(ながつか ともひろ)
将也の高校のクラスメイト。将也が高校に入ってから初めてできた友達。ノリが良い性格であるが、見栄を張るために嘘をつく癖がある。情に厚く、芯が強く思いやりがある。

真柴 智(ましば さとし)
将也の高校のクラスメイト。性格は穏やかで、いつもニコニコしているが、どこか歪んだ部分を持つ。原因はクラスメイトから受けたいじめであり、現在もいじめを黙って見過ごすことができず、いじめ現場やいじめっ子などに立ち会うと人が変わったように冷酷になる。

西宮 結絃(にしみや ゆづる)
硝子の妹。中学生であるが、不登校で学校には通っていない。将也について、硝子の補聴器を何度も壊され、筆談ノートを池に捨てられ、あげくに硝子がボロボロになるまで取っ組み合いの喧嘩をした相手として名前を知っており、彼が硝子に会いに来て親密になろうとしてきたことに憤り、あらゆる手を使って妨害する。

あらすじ(ネタバレあり)

『聲の形』のストーリー(あらすじ)を簡単に紹介しています。この先の内容は、ネタバレを含んでいるため注意してご覧ください。

第1巻のストーリーを紹介!

「俺は彼女が嫌いだった」――明るく! 楽しく! 大冒険! がモットーの少年、石田将也(いしだ・しょうや)。耳の聞こえない転校生の少女、西宮硝子(にしみや・しょうこ)。2人の出会いが、教室を、学校を、そして将也の人生を変えていく――。余りにもみずみずしい青春のカケラたち。最高に切なく、心ゆさぶる物語が生まれました。

高校生の少年・石田将也は、とある手話サークルの会場にて、捜し続けていた少女・西宮硝子と再会を果たすことになる。だが、彼女は驚きのあまり逃げ出す。

二人の出会いは小学校6年生のとき。将也のクラスに転校生として硝子が現れる。彼女はノートに綴った自己紹介で自分は耳が聞こえないことを伝える。硝子が転校してきて以降、耳が聞こえない彼女が原因で授業が思うように進まなくなることが多く、苛立ちを覚えるようになったクラスメイトたちは、将也が中心となって硝子をいじめるようになってしまう。学級会が開かれ、硝子へのいじめが問題視されると、今度は将也がその標的となった。硝子は将也を介抱しようとするが、将也はそれを拒む。硝子は転校してしまう。

中学、高校と、友人のいない学校生活を送った将也は、自殺を決意。バイトや身辺整理で貯めた170万円を母の枕元へと置き、硝子がいるという手話サークルの会場へと向かい、彼女と再会する。

見どころ聴覚障碍者のヒロインと、彼女に対するいじめ描写が賛否両論を巻き起こしました。ただ「否」も多かったものの、「賛」も多く、アンケートでは上位の人気を獲得。これによって連載が決まることになります。

1巻は、小学生時代のいじめの描写が中心。硝子に対してのいじめはひどいもので思わず目をそむけたくなります。小学生でも六年生ともなると、保身やずる賢さも身につけており、人間関係のドロドロ具合もなかなかのもの。

硝子へのいじめのシーンが終わった後も、将也へのいじめと、彼が孤独になっていく描写が続き、読むにはかなりのエネルギーを使います。そのため、読切掲載前には、全日本ろうあ連盟への相談も行っていたほど。ただ連盟からは「何も変えずそのまま載せてください」との回答を得たそうです。

170万という被害総額を聞くまで自分のしたことの重大さを理解しなかった将也、硝子へのいじめが問題視されると今度は将也をいじめるようになった島田・広瀬、自分の保身に走る川井、いじめに加担したのにもかかわらず将也を売る植野など、登場人物の利己的な行動に胸糞悪いという感想があるのも頷けます。良心的な登場人物である佐原は不登校になり、硝子は転校してしまいますしね。

ただ作者の大今先生は、本作で描きたかったことを「コミュニケーション」と称しています。聴覚障害でも、いじめでもなく、コミュニケーションに注目することで見えてくるものはなんでしょうか。

第2巻のストーリーを紹介!

「西宮、逃げないでくれ!」。耳の聞こえる少年・石田将也(いしだ・しょうや)。耳の聞こえない転校生・西宮硝子(にしみや・しょうこ)。5年後、将也は人生の最後に、西宮硝子に会わなければいけないと決意する。初めて伝わる2人の「こえ」。そして物語は、幕を開ける。1・2巻累計40万部突破。週刊少年マガジンの大反響作、待望の第2巻発売。

硝子と再会した将也は、彼女とコミュニケーションを行うために覚えた手話を通じて話しかけ、謝罪を行った。硝子は将也の手話に驚きつつ、将也からの「友達になれるか」という申し出を受ける。将也は硝子だけではなく、硝子の母にも謝罪を行うが、母には拒絶される。

それから将也は手話教室に硝子を訪ねていくが、硝子の彼氏を名乗る少年に妨害される。高校では同じクラスの永束と友達になるなど進展が見られたが、硝子を助けるために川に飛び込んだことが、悪意のあるデマによるフェイクニュースが拡散され、将也は停学処分になってしまう。

見どころ1巻の小学生編が終わって、本格的に本編がスタート。1巻の続きから物語が進みます。

自殺を考えている将也は、1巻の粗野なガキ大将とはまるで別人。精神的に沈みがちで不器用さはありますが、腰の低い温厚な少年に育っています。

すごいなと思うのが、硝子の将也に対する態度。かつて自分のことをいじめていた少年が会いに来たのですから、怯えて彼のことを拒絶しても何の不思議もありません。それなのに、彼の謝罪を聞き、彼が手話を覚えて自分とコミュニケーションを取ろうとしたことに喜びを見せます。そして友達になるという申し出を受け入れるのです。

反対に、硝子の家族は将也のことを拒絶します。僕はこちらの反応の方が自然なものに思えました。かつて問題を起こした相手よりも、他の温厚な人間と付き合った方がいいですから。それでも硝子は将也のことを受け入れます。

たぶんですが、硝子にとっては手話の存在や価値が、読者の予想以上に大きなものなのだと思います。硝子にとっての声であり耳であるものを、いじめっ子とはいえ、かつての同級生が覚えてきてくれた。その喜びの大きさを2巻は表現しているのではないでしょうか。

第3巻のストーリーを紹介!

「怖いのか? 西宮(にしみや)のことを知るのが」かつて、奪ってしまった硝子(しょうこ)の幸せを取り戻すために生きると決めた将也(しょうや)。硝子のために、将也は断ち切ったはずの過去と向き合う。旧友たちとの再会は、将也と硝子の関係にも変化をもたらし……。

親から携帯を買ってもらった将也。早速硝子の連絡先を手に入れようとするが、硝子が連絡先を知りたがったのは小学校時代の同級生の佐原だった。将也は連絡先を知らなかったが、小学校からのクラスメイトの川井から佐原の進学した高校を知る。そして硝子は佐原と再会。永束を含めた4人で、硝子の希望したカラオケに行くなど再会を楽しむ。

小学校時代のクラスメイトのその後が気になる将也の前に、次に現れたのは植野だった。実は将也に想いを寄せていた植野は、将也に向けて自分の想いを伝えるメモを忍ばせるが、作戦は失敗する。将也と硝子を見た植野は二人が付き合っていると勘違いし、ちょっかいをかける。将也はそれを否定するが、一方の硝子は後日、将也に好きという気持ちを伝えるのだった。

見どころ佐原、植野という旧友たちと再会する巻。高校でも将也と同じクラスの川井と合わせて、この後の巻にも登場するメインキャラです。

佐原は、植野に言わせればバカとのことだけど、まっすぐで優しい子。反対に植野は感情的で直情的。ラブコメならツンデレキャラなんでしょうけど、本作ではヒステリックで暴力的な一面が印象的です。

良い思い出であれ、悪い思い出であれ、昔のことを思い出すと、当時の友人たちの顔が連鎖的に浮かぶものです。そこから、いまどうしてるんだろうと想像したりしますよね。

次々と当時のクラスメイト達に再会するのはご都合主義かもしれません。でも、元々は地方の公立の小学校のクラスメイトです。なら家も近いだろうし、生活圏も似たようなもの。ばったり出くわすこともありますよね。

小学生のとき、あるいは10代のときは、学校と家が世界の全部みたいなもの。当然、当時の友人たちの影響は大きいです。当時のクラスメイトたちと再会することで、将也の中で起きた変化というものが見えてきます。

第4巻のストーリーを紹介!

伝わらなかった硝子(しょうこ)の告白。ニブすぎて、伝わらなかったくせに硝子との距離を縮めたい将也(しょうや)。意を決して、みんなで行く遊園地に硝子を誘う! 思いがけない旧友との再会。明らかになる硝子と結絃(ゆづる)の、出生の秘密。自分のことを好きになれないふたりの未来は……。

将也は新たに高校のクラスメイトの真柴と友人になる。そして真柴や小学校のクラスメイト達と、遊園地に向かい、「友達らしい」時間を楽しむ。しかし、遊園地で働く島田を見て将也は動揺する。植野が遊園地を提案したのも、このためだった。しかし、島田は植野の好意をお節介と感じ、将也も話しかけに行かなかったために、二人は仲直りをせずに終わる。

後半では現在に至るまでの西宮家の人々の様子が描かれる。

見どころ小学校ではいじめの標的となり、中学校ではその噂が広められ孤立していた将也。高校でも周囲の人とのコミュニケーションを拒み、孤独を感じていました。

そんな将也も徐々に周りの人との交流を深めていきます。ですが植野が画策した島田との仲直りは失敗。それと合わせて、将也のコミュニケーション下手っぷりが描かれていると思います。

いじめの経験とその後の孤独感から、将也はコミュニケーションを避けがちになっています。そういう人は世の中にたくさんいると思います。誰かとつるんでめんどくさいことになるくらいなら、自分一人でいようとする人。

「コミュニケーションを描こうとした」本作の一端が垣間見える巻です。

第5巻のストーリーを紹介!

西宮硝子(にしみや・しょうこ)と再会してから、広がり続ける将也(しょうや)の世界。永束(ながつか)の提案で始まった映画作りに硝子も誘って参加することになった将也。硝子、そして仲間たちと過ごす夏休み。何気ない毎日に幸せを感じる将也だが、心の隙間に生まれた不安が、やがて大きな波乱を巻き起こし……。

夏休みの時間を利用して、将也たちは映画制作を計画する。未経験ながら制作は少しずつ前進するが、そんな中将也が川井にかつて自分が硝子をいじめていたことを秘密にしてほしいと語り、そのことが原因で川井は将也が硝子をいじめていたことを明かしてしまい、制作メンバーは喧嘩別れしてしまう。

植野や川井が衝突した様子を見た硝子は、その原因が自分にあると感じ、思い悩んでしまう。自分のせいで将也が不幸になるのではないか。そんなふうに感じた硝子は花火大会の夜、ベランダから飛び降りようとしていた。

見どころ2巻で友達について考えていた将也。その答えが示されているかもしれません。

映画制作のために集まっていたメンバーは、川井が将也の硝子に対するいじめを明かしたことによりあっさり崩壊。自分のことを棚に上げ、将也を非難する川井に嫌悪感を覚えますが、そもそも聲の形ではキャラクター全員の嫌なところが描いてあったりします。

「自分がいじめられていたこと」が崩壊の原因なのに、自分のせいだと感じる硝子に、「そんなことないよ。むしろ被害者じゃん」と思ったりもしました。でもそういうことではなく、硝子の自己肯定感がひたすら低いということなのかもしれません。

第6巻のストーリーを紹介!

「神さま どうか もうひとふり 俺に力をください」。過去のトラウマから、仲間たちを拒絶し、壊れてしまった将也(しょうや)の世界。その責任を感じた硝子(しょうこ)は、自ら命を絶とうとする。止まってしまった2人の時間。明らかになる、仲間たちの思い。バラバラになった心と体を繋ぎ合わせる術は……。

将也は飛び降りようとする硝子の腕を掴み、何とか助けようとする。その結果、硝子は腕を負傷したものの無事だった。一方の将也は意識不明となってしまう。

この事態に怒り心頭なのは、植野。硝子に詰めよるや殴り飛ばし、止めに入る佐原を突き飛ばし、西宮母とも殴り合いになってしまう。失意の硝子は将也の病室を訪れるも、籠城する植野に追い返されてしまう。そんな中、永束は映画制作の再開を決心していた。

見どころ将也が意識不明となり、周囲の人たちの行動や過去が描かれます。

結弦が死体の写真を撮り続けいていた理由、硝子が結弦に伝えた言葉、佐原の中学時代から現在に至るまでの心境、自分の可愛さを認識する川井のクラスでの立ち位置、小学校のいじめで歪んだ真柴…。

はたから見ている分には平穏な学生生活を送っているように見えるであろう登場人物たち全員につらい事情があり、上手く行かない部分があり、傷ついていることがわかります。

第7巻のストーリーを紹介!

「じゃーな、西宮(にしみや)」。硝子(しょうこ)を庇って大けがを負い、眠り続ける将也(しょうや)。前を向くと決めた硝子は、絶望の中、壊してしまったものを取り戻そうと動き出す。バラバラになった仲間たちの「こえ」にそっと耳を澄ませる――。繋がる想い。そして、再開した映画作り。時を刻み始めた彼らの世界に、待ち受ける未来は――。

将也は目を覚まし、硝子と再会する。その場で、将也は硝子に過去の行いについて謝罪。コミュニケーションエラーによる思い込みや、行き違いを反省した。その上で、死ぬのではなく、自分が誰かと話したり、遊んだりすること、つまり生きることを手伝ってほしいと伝える。

高校では学園祭が開催されており、将也は永束たちが制作した映画を観るためにその場を訪れる。そしてみんなで学園祭を見て回る。

書評・感想・解説

友達とのコミュニケーションについて描いた傑作

学生時代の狭い生活圏の中で、大きな影響力を持つのは友達と、友達との会話です。友達にひどいことを言われれば何年経ってもなかなか忘れることができません。

聲の形が最初に世の中に出たのは読切という形でした。少ないページの中で描けることには限界があり、また聴覚障碍者についてのいじめが題材だったため、大きな賛否両論を含む侃々諤々の議論を巻き起こすことになりました。

僕も当時、読切をリアルタイムで読み、またマガジン誌上で連載を追いかけていたこともあり、その議論やSNS上で展開される意見の応酬をよく見かけました。

否定側の意見も良く分かります。というのも、いじめは子どもたちの間で起きたことですが、その周囲にいる大人たちにも大きな問題があるからです。

担任の竹内はいじめの問題を知りながらも放置し、硝子の母は娘が強くなるためにといじめを認識していながらも事の推移を傍観しているようでもあります。当事者としていじめ犯とぶつかった結弦は、この母親の判断を非難していますね。一方、将也の母は息子が壊した補聴器の代金を弁償しますが、息子に対して強い口調で反省を促したりはしません。硝子の父に関しては問題外のレベルです。

しかし、2巻になり物語の舞台である高校生編(現在)が始まると、作品は別の顔を見せてきます。それは作者がテーマだと語る「コミュニケーション」の問題でした。高校生という年代に合わせ、その対象は友達になっています。

友達ってなんだろう。人は いつから他人を友達として認識するのだろうか?

聲の形、第2巻

いじめが原因で友達をすべて失った将也は、そんな相手について思考を巡らせます。それ以後この物語はいじめの問題を直接的には離れ、どうやって相手のことを理解すればいいのか、どうやったら相手のことを理解できるのかという問題を描いていきます。

硝子は自分が会話ができないため、困ったときでも愛想笑いをし、自分に非がなくても謝罪の言葉を繰り返します。しかし、このような態度は別に聴覚障碍者に限ったことではありません。耳が聞こえ、声を出すことができる人でも、時に自分の感情を上手く伝えられなくなってしまうし、相手の感情を慮ることが難しくもなってしまう。

タイトルには傑作の文字を入れましたし、僕はこの作品を好意的に見ています。その一方で、すべての登場人物が問題を抱えており、その歪さを表に出しているところに違和感を覚えたりもします。いわば多くの素晴らしい点と同時に、大きな欠点を抱えている作品だと思います。

そのどちらを重く見るかは人それぞれですが、本作を読んで一言で駄作と切り捨てたり、あるいは「みんな絶対読むべき。素晴らしい作品!」などと手放しに称揚するのは、小学生時代の将也や川井と同じような利己的な行為に見えます。自分の中でゆっくりと作品を咀嚼する。その中でこそ『聲の形』は多くの人の心の中に引っかかりを残すのだと思います。

『聲の形』は感動する作品で、西宮硝子は優しいいい子なのか

『聲の形』の評価を考えるとき、それがどのような形であっても、結局は次のような点を考えることに繋がると思います。

『聲の形』は感動する作品で、西宮硝子は優しいいい子なのか

最終的に将也は過去の行いを反省し謝罪、硝子はその彼を受け入れるというストーリーラインは美しいもののようにも感じます。少年の成長が描かれていると言えばそう。さらに聴覚障碍者に対する、差別・偏見・軽視・抑圧を描き、その実態を周知させたという価値はあるでしょう。

でもそこにあるのは、第三者の視点です。

『聲の形』には様々なキャラクターが登場します。物語はおもに将也の視点で進行しますが、時折ほかのキャラからの視点も挿入されます。植野、川井、結弦たちですね。そのために主人公以外のキャラの内面を知ることができるようになっています。

僕が違和感を覚えたのは、ここに硝子の視点が描かれていないということです。硝子の内面は、他のキャラとの関わりの中で描かれます。彼女一人だけが映るシーン/カットもたくさんありますが、その視点は三人称視点であり、一人称ではありません。つまり彼女の内面は、他のキャラとの関わりの中から推測するしかないのです。

しかし、彼女はいじめを繰り返し受けており、他の人とのトラブルを避け、そのためにすぐ謝罪する行動をとります。硝子は将也の謝罪を受け入れたことで、「優しい」とか「心が強い」とか思う人もいるかもしれません。

でも僕はそうは思いません。

学校でいじめられ、抑圧された人間が、人とコミュニケーションを取る時にどのような姿勢になるか。どのような態度をとらざるを得なくなるのか。『聲の形』にある視点は、硝子のものではなく、彼女と接する人たちのものです。彼らは自分の都合で硝子のことを解釈し、その解釈に基づいて行動します。

誤解を恐れずに言えば、僕はそんな彼らを拒絶的に見るけれど、そんなに強い言葉で否定しようとは思いません。それは誰だってそういうものだろうと思うからです。人はやはり自分に都合のいいように物事を解釈するし、ネット時代なら、そう解釈するために有利な情報を集めることも簡単です。

やはり問題は硝子の心理描写が排除されている点です。硝子は結弦が将也の写真を撮り拡散したことに怒った表情をするけれども、そのときにどのような思考があったのかという、言葉を伴った心理描写はされません。ほかのキャラはいくらでも心理描写が言葉で明確に描かれているのにも関わらずです。

硝子は声を出して話すことは苦手にしています。でも、別に何も考えていないわけではありません。将也にプレゼントを渡したり、そのときにはポニーテールにしてみたり、結弦や佐原とプールに遊びに行けば笑顔も見せます。

そのとき彼女がどんなことを考えていたのかは、行動と表情からしか察することができないようになっています。僕はそのことに強い不満を覚えます。そのときにどのようなことを考えていたのか、コマの中に言葉で書けばいいんですから。そのことをしていないのです。それなのに自分の行動で将也が傷ついたときには、長い間思い悩んだ表情をさせています。そのコマには「ごめんなさい」や「私のせいで」や「なんでこんなことに…」などという言葉はありません。(これは硝子の表情から僕が勝手に推測した言葉です)

僕は『聲の形』の最大の欠点はここにあると考えています。欠点でなくて瑕疵と言ってもいいかもしれない。作品の根底にあるのは、障碍者ではない人の幼稚な自分勝手さと決めつけにも似た態度です。

つまり、『聲の形』には将也から見た硝子の姿は描かれているけれども、硝子から見た硝子自身の姿は描かれていないのです。それで読者に、彼女の姿を見せたと言わんばかりの態度を取っている。いわば車が片輪だけで走っているようなものです。

僕が好きな英語の言い回しに「Don’t put words into my mouth.」というものがあります。直訳だと、「私の口の中に言葉を入れないで」となりますが、ニュアンスとしては「言いもしないことを言ったなんて言わないで」となります。

SNSでよく起きている問題が『聲の形』にもあると思います。将也(たち)から見た硝子の声の形は描かれました。できれば、硝子自身の声の形も見てみたかったと思います。

僕は以上のような理由で『聲の形』に否定的な感情も持っています。それでも全体として見れば、そんなに悪い作品だと思っているわけでもない。作品の思想には嫌悪感を覚えるけれど、隠れていた問題を表に引っ張り出してきたことは事実です。また、表現ではなく、構成や展開、盛り上げ方など漫画の描き方は上手いと思います。

でもそれは、僕が「隠れていた問題」などと思ってしまう/認識していたからなのかもしれません。というかそうです。僕はそのことをについて考えるためにも、『聲の形』について「感動した!素晴らしい作品!」などと声高に吹聴しないようにしています。

映画版と原作のどちらから見るべきか?

原作をリアルタイムで追いかけていた方なら迷わなくていいですが、新しくこの作品を知った方は「アニメ映画版と原作のどちらから見るべきか?」と悩まれるかもしれません。

僕は「映画版」をおすすめします。

映画版は単行本7冊の内容を2時間にまとめるために、内容を端折っています。そういうのはよくありますね。原作ファンから「なんでこのシーンないんだよ」と怒られるやつです。

ですが『聲の形』の場合は、かなり構成に気を使ったのか、省略に不満な点はありません。カットされた場面やストーリーもありますが、自然に話が続いていきます。最初に観たときには「あのシーンないのか…」と思ったりもしましたが、全体の構成を知ってから観ると、カットに納得するものがありました。

おすすめの理由のうち、一番大きなものは「映画版は原作よりマイルドになっている」という点です。

『聲の形』では性格のきつい登場人物が何人もいます。その中で純粋な西宮姉妹が傷ついていく話でもあります。暴力もありますし、暴言もあります。

映画版にもそういう要素はあります。それでもだいぶマイルドになっています。悪意むき出しの描写にひとつオブラートがかけられています。そんな演出や脚本に加え、京アニの可愛らしい絵柄が見やすさに一役買っているんです。

ストーリーは原作に忠実ですし、まずは映画を観て、気に入るようだったら、物語を保管するように原作を読んでみるというのがおすすめですね。

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右手

平成生まれ。ライター、ブロガー、文筆家志望、Twitterで書評を書いている人。読んだ本が1万冊を超えたことを機に2017年からブログ再開、2020年は戦後思想史を勉強しつつ小説を書いています。好きな作家はカフカ、ガルシア=マルケス、村上春樹、大江健三郎、庄司薫、佐藤泰志など。そのほか、ラテンアメリカ文学、英ロック、欅坂46、囲碁、宮下草薙も好きです。
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