恋する原発(高橋源一郎)のあらすじ(ネタバレなし)・書評・感想

不謹慎上等、原発事故直後に発表され大議論を巻き起こした問題作。『恋する原発』

恋する原発(高橋源一郎)の作品情報

タイトル
恋する原発
著者
高橋源一郎
形式
小説
ジャンル
純文学
執筆国
日本
版元
講談社
初出
群像、2011年11月号
刊行情報
講談社、2011年

恋する原発(高橋源一郎)のあらすじ(ネタバレなし)

ファック震災! 被災者を救うベくチャリティAVを企画した男たちの奮闘記。正しさとは? 愛とは? 死を悼むとは? 不謹慎上等、原発事故直後に発表され大議論を巻き起こした問題作。「震災文学論」挿入。

作者

高橋 源一郎 たかはし・げんいちろう(1951年1月1日 – )

作家。明治学院大学教授。1951年、広島県生まれ。横浜国立大学経済学部中退。『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞受賞。著書に『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』(集英社新書)、『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書)、編書に『読んじゃいなよ!――明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ』(岩波新書)など。

恋する原発(高橋源一郎)の刊行情報

  • 恋する原発』講談社、2011年
  • 『恋する原発』河出文庫、2017年

恋する原発(高橋源一郎)の登場人物

「おれ」
AV監督。チャリティーAVの製作に奔走する。

ジョージ
宇宙人。AD。超能力を持っている。

恋する原発(高橋源一郎)の感想・評価

不謹慎文学

不謹慎すぎます。関係者の処罰を望みます。  ―投書

恋する原発

2011年3月に発生した東日本大震災とそれに付随する津波と原発事故がもたらした影響は甚大なものだった。その影響の大きさは単に日本社会や日常生活にとどまらず、文学・小説の世界にも怒涛の如く進出している。本作『恋する原発』も震災の影響を大きく受けて、あるいは震災の発生によって提出された一篇と言って差し支えないだろう。

しかし、本作の提出後すぐに一部の読者からは「不謹慎だ」という声が挙がることになった。舞台が小さなAV制作会社で、その内容がチャリティーAVをつくるというもの、とりわけ本文中には下品な言葉が連発するとなれば、その指摘も当然のことのように思える。だが、本文中にたびたび顔を見せる”真面目な”高橋源一郎の筆は、著者はその批判からは遠いところにいるのかもしれないと思わせるものがある。

雨が降っていた。もしかしたら、この雨にも、放射能が含まれているのだろうか。待てよ、放射能じゃなくて、放射性物質っていうのか?……なんで、そんなことを心配しなきゃならんのだろう。間違ったことをいったらいけないって?なんで?ぜんぜんわからない。

恋する原発

原発事故の発生後ネット上では「放射能」と「放射性物質」の混同はたびたび見られる。専門家でもない一般人がその区別を求められることは酷だが、もしTwitterなどで間違ったことをつぶやけばたちまち訂正・批判のリプライが飛んでくることだろう。

甚大な被害に対するやりきれない思いはあるいはそんな形で表出していたのかもしれない。原発事故に関して言えば政府の対応策や善後策に矛先を向けることもできただろうが、揺れと津波はどうしようもない一面を持っていた。

「ずっと揺れてたんだよ」会長はいった。「何十年もな」

恋する原発

本作でAV制作事務所が「ゆれた」とき、戦後史を体験してきた老齢の会長は「ずっと揺れてたんだよ」と語る。東日本大震災にかぎらず、戦艦大和の沈没、学生運動、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件によって日本列島は「何十年も揺れ続けていた」という。

そんな揺れ続けていた日本列島では「不謹慎でないこと」が要請され続けていたともいえる。不確かな情報発信の危険性を認識していても、一素人のつぶやきに間違いを指摘するリプライが届く、ときには殺到する状況は異常である。”不謹慎”がちりばめられた本書はそのことを逆説的に語っているように思える。

普遍性を持っているのか

文庫版解説を担当した川上弘美は本書の普遍性について以下のように記している。

震災を受けて書かれた小説だと思っていた『恋する原発』が、もっと広い普遍性をもっているのは、当然のことだったのです。なぜなら、震災という出来事が、高橋さんの身体を通過し、その結果が長篇小説となってあらわれた時、そこには、高橋さんの中にある、すべてのことがあらわれていたからです。

恋する原発 文庫版

先ほど僕は「本作『恋する原発』も震災の影響を大きく受けて、あるいは震災の発生によって提出された一篇と言って差し支えないだろう。」と書いたが、川上によればそれは完全に正しいものではないという。

だが、日本において「不謹慎でないこと」が要請され続けていたというのは「もっと広い普遍性」とも言えるかもしれない。そう思った。

初めて読んだとき、下品な言葉のオンパレードに面食らったが、(そのためネタバレを含むあらすじを書くことができなかった。そんな言葉を並べればGoogleに広告を止められる危険性があるからだ)ファーストインパクトさえやり過ごせば、行間に”真面目な”高橋源一郎が潜んでいるような気がしてくるから不思議だ。そんなものはないかもしれないのに。

合わせて読みたい本

影裏

第157回芥川賞受賞作。

大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。

北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、
ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。
いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、
「あの日」以後、触れることになるのだが……。

樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。

恋する原発(高橋源一郎)の評判・口コミ・レビュー

この記事を書いた人
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平成生まれ。ライター、ブロガー、文筆家志望。高校時代からブログを始め、一時中断後、読んだ本が1万冊を超えたことを機に2017年からブログを再開。普段は本を読みつつ小説を書いています。好きな作家はカフカ、ガルシア=マルケス、村上春樹、大江健三郎、庄司薫、佐藤泰志など。そのほか、ラテンアメリカ文学、英ロック、囲碁、株式投資、マジック:ザ・ギャザリングも好きです。
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