晩年の父(小堀杏奴)の概要・解説・感想

文豪・森鷗外の次女・小堀杏奴が敬愛する“パッパ”との思い出を書き残すために執筆した一冊。

晩年の父(小堀杏奴)の作品情報

タイトル
晩年の父
著者
小堀杏奴
形式
随筆
ジャンル
随筆・エッセイ
執筆国
日本
版元
岩波書店
初出
下記
刊行情報
下記

晩年の父(小堀杏奴)のあらすじ・概要

仰ぎみる文豪でもなければ、軍服に身を固めた軍医総監でもない鴎外。ここには、母や妻、子どもたちの中心となり、周囲に濃やかな愛情をそそいだ家庭人の風貌が、少女の繊細な目を通して生き生きと描き出されている。著者は鴎外の次女。父の死直前のほぼ1年の思い出を綴る「晩年の父」ほか、「思出」「母から聞いた話」などを収める。

晩年の父(小堀杏奴)の目次

  • 晩年の父
  • 思出
  • 母から聞いた話
  • あとがきにかえて はじめ悪しければ終り善し


1935年11月15日記

晩年の父
1934年5月16日記
初出、雑誌「冬柏」

思出
1935年11月15日
初出、雑誌「冬柏」

母から聞いた話
1935年11月15日記

あとがきにかえて はじめ悪しければ終り善し
1978年10月7日
諸君!、1979年1月号

作者

小堀 杏奴 こぼり あんぬ(1909年5月27日 – 1998年4月2日)

随筆家。森鴎外と後妻・志げの間の次女として東京市本郷区千駄木町(現・東京都文京区)に生まれた。仏英和高等女学校に進学した1922年7月、父が死去。1931年、弟・類とともに画家藤島武二に師事。一緒にフランスに渡り、パリで洋画を学ぶ。1934年11月、藤島武二の仲人で画家・小堀四郎と結婚。1998年4月2日、88歳で死去した。

晩年の父(小堀杏奴)の刊行情報

『晩年の父』岩波書店、1936年2月

『晩年の父』岩波文庫、1981年

晩年の父(小堀杏奴)の感想・解説・評価

“パッパ”との思い出を記した手記

本書は鴎外の三番目の子どもとして生まれた杏奴が父との思い出を書き留めておくために記した手記となる。森鴎外というと、「漱石と並ぶ明治の文豪」「陸軍軍医総監」というお堅いイメージがあるかもしれないが、本書の鴎外は子どもに笑いかける優しい人物として描かれている。

杏奴がこの手記を書いたのは25、26歳のときのこと。父・鴎外は彼女が13歳のときに亡くなってしまっているが、「出来るだけ父の事について書き残して置きたい」との思いから執筆を決意したとのことだ。画家の小堀四郎と結婚した前後の時期で、自分も結婚し子どもが産まれるということから父親の事を思い出したのかもしれない。

手記の中の杏奴は今風に言えば、まだ小学生や中学一年生。父親とも遊びたかったのに、一緒に外を走ったりはしてくれないし、「泳げない」と話す父親の姿に不満も抱いている。いたずらしたい盛りで、鴎外もそんな娘の事を可愛がっている様子が伝わってくる。

「父は何時も静かであった。葉巻をふかしながら本を読んでばかりいる。子供の時、私はときどき元気な若い父を望んだ。自分の細かいどんな感情をも無言の中に理解していてくれる父を無条件で好きではあったが、父はいつでも静かだったし、一緒に泳ぐとか走るとかいう事は全然なかった。何んでも父と一緒にやりたかった私には、それがひどくつまらない気がした。」

晩年の父

父と一緒に地理や歴史の教本から抜き書きしてオリジナルの教科書を作ってみたり(これは 杏奴の没後に発見され公開された)、弟と一緒に電車の停留所へ仕事終わりの父を迎えに行ったりと可愛らしいエピソードに溢れた一冊になっている。

子どもっぽく素直で客観的な父親像

夭折した次男・不律を除き、長男・於菟、長女・茉莉、次女・杏奴、三男・類の四人はいずれも父親についての文章を残している。

父と過ごした日々が若く、また手記を執筆したのが二十代と若かったこともあってか、杏奴の文章はもっとも素直で子どもっぽい。その素直さから母親の言ったことをそのまま書き写した面もあったようで、客観性を持っているのが微笑ましくもある。自分以外の人が父親について書いたものを相当読んでおり、読者の視点を持っていたためだろう。

兄弟姉妹のうち、茉莉のものがもっとも父親への愛が伝わってくる気がする。文筆活動を始めたのが、50代からと遅かったこともあってか、しっかりとした文章で父親への愛を綴っている。

一方、類は鴎外について暴露していることもあり、赤裸々。読み物として瞬間のおもしろさは一番だ。

とはいえ子どもたちの視線から見る鴎外の姿は様々。子煩悩な良い父親だったようだが、読み比べてみるのもおもしろいと思う。

合わせて読みたい本

茉莉が食について書いたエッセイをまとめた本。食に対する造詣が深いだけではなく、文学に対する知識も豊富。結婚前、“森家”に住んでいたエピソードも含まれている。
詳細貧乏サヴァラン

晩年の父(小堀杏奴)の評判・口コミ・レビュー

この記事を書いた人
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平成生まれ。ライター、ブロガー、文筆家志望、Twitterで書評を書いている人。読んだ本が1万冊を超えたことを機に2017年からブログ再開、2020年は戦後思想史を勉強しつつ小説を書いています。好きな作家はカフカ、ガルシア=マルケス、村上春樹、大江健三郎、庄司薫、佐藤泰志など。そのほか、ラテンアメリカ文学、英ロック、欅坂46、囲碁、宮下草薙も好きです。
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