精霊の王(中沢新一)の概要・解説・感想

宿神=シャグジ。国家誕生とともに埋葬され、忘れられた精霊である。

精霊の王(中沢新一)の作品情報

タイトル
精霊の王
著者
中沢新一
形式
学術書
ジャンル
民俗学
文化人類学
考古学
歴史学
芸能学
執筆国
日本
版元
講談社
初出
群像、2002年1月号~2003年3月号まで計12回
刊行情報
講談社、2003年

精霊の王(中沢新一)の概要・あらすじ

柳田國男の代表作に『石神問答』があります。石神=シャグジは四千~五千年前ほど前、この列島に国家が存在しなかった時代へと遡る「古層の神」です。国家が誕生するとこの古層の神は零落してしまいます。しかしながら、この縄文的な精霊は、芸能と技術の専門家たちの世界で、たくましく生き残っていたのです。「宿神(しゅくじん)」という名前で、能や造園といった分野では深く敬愛される存在でした。国家などの秩序を支える神に

柳田國男の代表作に『石神問答』があります。石神=シャグジは四千~五千年前ほど前、この列島に国家が存在しなかった時代へと遡る「古層の神」です。国家が誕生するとこの古層の神は零落してしまいます。しかしながら、この縄文的な精霊は、芸能と技術の専門家たちの世界で、たくましく生き残っていたのです。「宿神(しゅくじん)」という名前で、能や造園といった分野では深く敬愛される存在でした。国家などの秩序を支える神に力をあたえ、秩序の世界に創造をもたらす存在は、中世には「後戸(うしろど)の神」と呼ばれていました。

本書の旅は、蹴鞠の名人・藤原成通の不思議な話から始まります。そして金春禅竹の秘伝書『明宿集』と中世における宿神の奇跡を辿り、縄文的要素の残る諏訪へと向かいます。そこで出会う太古の記憶は不思議な感動を覚えずにはいられません。

そこからさらにユーラシアに散在する宿神的な痕跡をおいかけることで、その人類的な普遍性へといたります。熱く力強い筆致でわたしたちの前に現出する世界に圧倒されずにはいられません。

本当に世界を動かしている驚くべき力に触れる壮大な人類史を描ききった瞠目の書です。

作者

中沢新一(1950 – )

思想家、宗教史学者。明治大学特任教授/野生の科学研究所所長、多摩美術大学美術学部芸術学科客員教授。クロード・レヴィ=ストロース、フィリップ・デスコーラ、ジャック・ラカン、ジル・ドゥルーズ等の影響を受けた現代人類学と、南方熊楠、折口信夫、田邊元、網野善彦等による日本列島の民俗学・思想・歴史研究、さらに自身の長期的な修行体験に基づくチベット仏教の思想研究などを総合した独自の学問「対称性人類学」を提唱する。

精霊の王(中沢新一)の刊行情報

『精霊の王』講談社、2003年11月

『精霊の王』講談社学術文庫、2018年3月

精霊の王(中沢新一)の感想・解説・評価

国家的神話以前の神・ミシャグチを巡る冒険

柳田国男『石神問答』で言及された国家的神話以前の神・ミシャグチを巡り、様々な思考が展開される。このミシャグチ、別名をシャグジ、ミシャグジ、シュクジンなどという神は、石の神だ。日本の神の体系には含まれたことがなく、忘れかけられていた。日本列島に国家や神社が成立する前の時代にいたるところに分布した古代神だという。

ミシャグチと言われても多くの人には馴染みのないものだと思うが、別名のひとつ・シャグジから石神井(しゃくじい)という地名を連想することができればその存在は一気に身近になる。石神という単語が含まれていることからも、石神井という地名がミシャグチの異名から来たことがわかる。

「それは神というよりはむしろ精霊と呼んだほうがよいような、とてつもない古さを秘めている。かつてその精霊はこの列島上のいたるところに生息し、場所ごとに少しずつちがった呼び名で呼ばれていた。シャグジ、ミシャグジ、シャクジン、シュクジン、シュクノカミ、シクジノカミなどというのが、この精霊の名称の一部であるが、柳田国男はそうした呼称すべてに、「サ音+ク音」の結合をみいだすことができることを発見していた。この形をした音の結合は、きわめて古い日本語でものごとや世界の「境界」を意味するものだった。この精霊は、古代の人々が空間の構造や事物の存在を認識するうえで、とても大きな働きをしていたことが、これによってあきらかにされた。

『精霊の王』中沢新一、講談社

中沢は、先行する民俗学・文化人類学・考古学・歴史学・芸能学など複数の学問を越境的に踏まえつつ、ヨーロッパの研究成果をも吸収し、未完成のままとなった柳田国男の『石神問答』にひとつの発展形態をもたらすという課題に取り組んでいる。

中沢新一独自の知の旅

柳田国男『石神問答』で言及された国家的神話以前の神・ミシャグチについて触れるところから本書は幕を開ける。しかし内容はそれだけにとどまらない。金春禅竹の『明宿集』などから、読者は中沢新一独自の知の旅に出発することになる。

柳田國男の石神問答、折口信夫の翁論、諏訪のミシャグチ神、ユーラシア全体に広がる精霊…と題材を変えながら旅は進行。その間に読者はプラトンから吉本隆明、ディケンズから中原中也と作者の頭の中を覗き込んでいくことになる。

精霊の王(中沢新一)の評判・口コミ・レビュー

この記事を書いた人
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平成生まれ。ライター、ブロガー、文筆家志望。高校時代からブログを始め、一時中断後、読んだ本が1万冊を超えたことを機に2017年からブログを再開。普段は本を読みつつ小説を書いています。好きな作家はカフカ、ガルシア=マルケス、村上春樹、大江健三郎、庄司薫、佐藤泰志など。そのほか、ラテンアメリカ文学、英ロック、囲碁、株式投資、マジック:ザ・ギャザリングも好きです。
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